元会計事務所員。税務・会計関係の『積読本』消化をめざして立ち上げた感想文ブログです。

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第13回 税務会計の本質観(5) 減価償却は損金算入できなかった?―時代の変遷と昔の税務訴訟

「法人税のおける減価償却費の史的研究」
 濱沖典之著、泉文堂、2005年
法人税における減価償却費の史的研究法人税における減価償却費の史的研究
(2005/09)
濱沖 典之

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[購入動機] 書名
[コメント] 会計も税務も時代によって考え方が全く異なるのですね


【今回の記事の目次】
 1. 減価償却は損金算入できなかった?
 2. 減価償却という用語の変遷
 3. 何故損金算入を認めたがらなかったのか?
 
4. 相次ぐ行政訴訟~明治・大正期
 
5. 感想

【参考】
「わが国 税務会計の発達とシャウプ勧告」
 高橋史朗著、同文館書店、平成23年
わが国税務会計の発達とシャウプ勧告わが国税務会計の発達とシャウプ勧告
(2011/08/17)
高橋 志朗

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1. 減価償却は損金算入できなかった?
 法人税法の規定の約半分は固定資産関係によって占められているというほど、税務における固定資産会計の地位は高い(自閑博巳著、「固定資産の法人税実務」、税務研究会出版局、平成21年、p11)
 条文数を数えたことはありませんが、現在の税法における減価償却の計算は、かなり細部まで詳細に規定されております。この税務基準をもって会計の妥当性を認める、いわゆる「逆基準性」をもつまでに至り、IFRSの導入におけるトピックの一つにもなりました。
 
 この減価償却。所得税(法人税)導入の当初は損金算入とされておりませんでした。利益処分と考えられていたのが主な理由です。
 
 日本において減価償却の損金算入問題が生じたのは、政府から払い下げられた巨額な資産をもつ紡績業、海運業であったそうです。これらの企業の不服により行政訴訟から、船舶などから少しずつ損金算入が認められ、規定として損金が認められることとなったのは、大正9年(1920年)の「所得税法施行上取扱方心得」がはじめてだそうです。ただ、この際に認められたものは利益処分方式により計上された「減価償却金」。その後、昭和2年(1927年)の総合通牒「主秘第一号」で
「法人カ資産ノ減価償却及評価損ヲ総損金中二計算シタル場合二於テハ其ノ目的カ計算ノ基礎ヲ堅固ナラシムルニアリ特二脱税ノ結果ヲ来サスト認メラレル程度ノモノハ之ヲ是認スルモノトス…」(「所得税取扱方」昭和2年1月6日主秘第一号第49号)
という規定が設けられ(今の感覚でいうと、すごい警戒心を持った規定ですね…)、定額法・定率法の使用、固定資産の種類等ごとに「固定資産堪久年数表」が定められました。それでも、しばらくは「特殊なもの」という取扱いを受けており、戦中・戦前まで直接法による減価償却費の損金算入のみが認められ、間接法による処理が認められたのは戦後の昭和23年(1948年)だそうです(高橋志朗著、「わが国税務会計の発達とシャウプ勧告」、同文舘出版、平成23年、p27~28)。
 
 減価償却は損金算入が「当たり前」-という雰囲気ではなかったみたいですね。
 
2. 減価償却という用語の変遷
 本書p106~116にかけて「減価償却」用語の変遷を追っています。
 そもそも「減価償却」という用語も当初から使われていた訳ではなく、「原價(原価)」「減價(減価)」「償却」「消却」と、減価償却に対する認識の違い(再取得資金や資本維持等の観点から見るか、費用配分観点から見るか)により、さまざまや用語が当てられていたようですが、序々に「減価償却」という用語に固まっていったようですね。
第13回 image1
  取得原価を費用配分するという発想ならば、原価を取り消す(write-off)のであるから、字義としては「原価消却」「減価消却」が適当かと思われますが、昭和7年(1932年)「固定資産減價償却準則」が示されたことにより、「減価償却」という語が定着をみた―ということのようです(p113)
 つまり、本質は費用配分とする今日においても、「価値が減じた分を償い埋め合わせる」という意味の「減価償却」という語の使用になり、「名は体を表す」ことにはなっていない―と述べています(p116)
 会計的な発想よりも、財務、経営的な発想の用語が優先されたということでしょうかね。ただ、この文字通りの「価値が減じた分を償い埋め合わせる」という発想から、初期の減価償却は利益処分による積み立てが多かったことも頷けます。
 
 
3. 何故損金算入を認めたがらなかったのか?
 明治32年の法人税(第一種所得税)においては、「各事業年度総益金ヨリ同年度総損金…ヲ控除シタルモノニ拠ル」とだけ規定され、その内容の説明が所得税法の条文中になかったため、商法の財産評価に関する規定に依拠せざろうえなかった―と本書では指摘しています(p3)。
 
 旧商法の財産評価規定は覚えていらっしゃるかたも多いと思いますが、明治23年(1890年)商法第32条では、
 各商人ハ開業ノ時及ヒ爾後毎年初ノ三ヶ月内ニ合資会社及株式会社ハ開業ノ時及ヒ毎事業年度ノ終ニ於テ動産、不動産ノ総目録及ヒ貸方借方ノ対照表ヲ作リ特ニ設ケタル帳簿ニ記入シテ署名スル責アリ。
 財産目録及ヒ貸借対照表ヲ作ルニハ総テノ商品、債権及ヒ其他総テノ財産ニ当時ノ相場又ハ市場価値ヲ附スルコトノ確カナラサル債権ニ付イテハ其推知シ得ヘキ損失額ヲ控除シテ之ニ記載シ又到底損失ニ帰ス可キ債権ハ全ク之ヲ記載セス。 (一部現代漢字としています。)
  明治32年(1899年)商法第26条は、
 動産、不動産、債権、債務其他ノ財産ノ総目録及ヒ貸方借方ノ対照表ハ商人ノ開業ノ時又ハ会社ノ設立登記ノ時及ヒ毎年一回一定ノ時期ニ於テ之ヲ作リ特ニ設ケタル帳簿ニ之ヲ記載スルコトヲ要ス。
 財産目録ニハ動産、不動産、債権其他ノ財産ニ其目録調製ノ時ニ於ケル価格ヲ付スルコトヲ要ス。
 
と規定し、財産評価については時価主義(のちに時価以下主義)を採っていました。
 
 この商法の時価主義を税法上の損益計算に援用しているため、減価償却を損金と認めなかったものと思われる(p13)ということのようです。また、この頃の日本の一般企業では、現金収支主義を経費認識基準としており、ここにおいても現金支出の伴わない減価償却費は損金として認められなかったということになります(同頁)。
 
 ただ明治後半になっていくと、紡績業・海運業の所有する機械・船舶・建物にとっては、購入時に取得価額を一括損金するという処理ではとても立ち行かない(再調達資金確保や資本維持の観点もありますが、当時は繰越欠損金制度も不備だったのでしょう…)ため、課税される会社側にとっては由々しき問題となっていきます。課税する国側もその額が巨額であるため両者の対立が深まり、明治後年から大正にかけて、相次いで行政訴訟が行われました(p13)。
 
 ※ここで諸外国では減価償却の損金問題は鉄道業から生じることが多かったらしいのですが、日本では明治39年(1906年)に鉄道国有化法が成立したため、紡績業・海運業において問題となったのが特徴的なようです。
 
4. 相次ぐ行政訴訟~明治・大正期
 本書p14~26までは明治・大正期における減価償却費の損金性をめぐる行政訴訟がまとめられています。
第13回 image2
 上記のとおり、1903年の海運会社3社の裁判では、原告(納税者)の処理が是認されましたが、それは減価償却の損金性が認められたというよりは、商法時価評価の中の評価損という枠組み内での認定ということのようでした。本書では、p22において下記のように述べています。
 この時代に行われた減価償却の方法については、注意すべきことがある。それは前述のように当時の減価償却の目的は所有する資産の再調達にあったことから、所有する船舶の総価格に一定割合を乗じて算出した額をその期の減価償却費としたり、個々の船舶の使用年数をおおむね25年として、毎期一定額を帳簿価額が無くなるまで減価償却費を計上し続けたことである。すなわち、当時の実務においては、費用配分論にたった耐用年数、残存価額、減価償却の方法などについての確とした理解のないまま、経営上の必要性から減価償却に関する規定が定款において定められていたと察せられる(p22~23)。
 また、予め定められていた一定額で償却を行うならば良いですが、この利益処分による減価償却の計上は、しばしば利益が多く計上された時のみになされていることもあったようです。このことが間接法による実務の多くが利益処分によってなされていたため、間接法に対する不信に繋がっていることも指摘しています(p71)。  一方で、この裁判の間に、会計の理解が進歩したことについても、下記のように触れています。
 しかし、1903(明治36)年から1918(大正7)年の間に、減価償却に関する理解は、会計学においても、税務当局にあってもかなり進歩したようである。船舶には減価償却を認めても、機械及び装置には減価償却を認めないことについては、当時、簿記・会計学者等が強く反論しており、減価償却をめぐる論争が捲き起こった。この時期には次第に会社形態も充実して、より実務的、理論的に減価償却に対する考え方が掘り下げられていったのである。
 このことは本章で取り上げた1918(大正7)年に日本郵船株式会社が起こした行政訴訟からも浮かび上がるのである。すなわち行政裁判所の宣告は、依然として税法上の損金の認識を商法に拠るものとしており、改正された1911(明治44)年商法の財産評価の時価以下主義の「明文の文字に拘泥し、評価なる意義を余りに正直に且狭義に解し、従って減価償却を加味せる評価の意義まで商法第26条を活用すること能わざりしもの」と、被告で、その主張が容認された東京税務監督局の事務官 中村繼男に酷評されていることからもみてとれるものである。
 このことは、税務当局が、課税所得計算に商法の財産評価損を援用して、これを損金とすることをとり止めて、減価償却を損金とする認識・判断へ傾いたことを示唆するものとみることができよう(p23)。
※一部現代漢字としています。
5. 感想  面白く読ませて頂きました。諸外国での19Cからの鉄道業の減価償却等の事情を考えると利益処分的に考えいただろうな―とは思っていましたが、大正期まで引っ張っていて、更に裁判にまでなっていたのとは…。初期の税務訴訟として興味深いものでした。当時は会計・商法・税務のトライアングル体制というよりは、少し会計が弱かったのでしょうかね。現在でも慣行として成立していない取引であっても、将来はどのようになるか分かりません(何事も「当たり前」とは思ってはいけないのかもしれません)。いろいろと示唆に富んだ内容でした。  こちらの書籍は、残念ながら現在では在庫がないかもしれません。わが国税務会計の発達とシャウプ勧告に、上記のシャウプ勧告までの減価償却制度の変遷を7頁ほどレヴューしていますので、気になる方はそちらを見られても良いと思います(こちらも参考になる書籍です)。 [一部修正] 2012/11/7 [誤字修正] 2012/11/9
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2012-11-07 : 減価償却 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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