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元会計事務所員。税務・会計関係の『積読本』消化をめざして立ち上げた感想文ブログです。

第23回 株式評価の周辺(10) 「非公開株式」とは、全数が「譲渡制限株式」の会社の株式!―そうとは知らずに買いました…

非公開株式譲渡の法務・税務 [初版]
 牧口晴一、齋藤孝一著、中央経済社、2008年
非公開株式譲渡の法務・税務非公開株式譲渡の法務・税務
(2008/07)
牧口 晴一、齋藤 孝一 他

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[購入動機] 書名を見て買ったつもりでしたが…
[コメント] 私は「書名勘違い派」でした。でも、買って良かった!(以下旧版です)

【今回の記事の目次】
 1. 「法務編」は、実はワン・テーマ ― 著者オススメの自己株式の売買方法とは
 2. 譲渡承認申請してもらう方法
   ― 買取価格もオープンにならない!ピンポイントで特定株主から買取!
 
3. 譲渡承認請求による価格決定―ルートは「3つ+α」
 4. 他の買取手法の問題
   ― 相続人等からの強制取得(会社法174)による「相続クーデター」
 5. 感想等


1. 「法務編」は、実はワン・テーマ ― 著者オススメの自己株式の売買方法とは
 こちらの書籍は、書店では相続税や財産評価のコーナーに置かれていることが多いですよね。「非上場株式」「取引相場のない株式」の法務・税務の本だな!と思い手に取ると、実は「非公開株式」の本でした―という方が多いのではないでしょうか。かく言う私もその一人であります(言われれば、そうですよね)。
 
 本書が取り上げる「非公開株式」とは、ズバリ全数が「譲渡制限株式」である会社の株式のことです。
 会社法の言い方では「公開会社でない株式会社」会社法297②他)、すなわち、「発行するすべでの株式につき、譲渡制限が付されている株式会社」の発行する株式のことなのです。
 
 「譲渡制限株式」は、会社の発行する株式全般について譲渡制限を定款で定めたもの「全部の株式の内容としての譲渡制限株式」、会社法107①一、②一)と種類株式としての発行される譲渡制限株式(会社法108①四、②四)の二形態がありますが、どちらであっても、ともかく会社の「出来上がり」として発行済株式が全て「譲渡制限株式」であれば、この「非公開株式」ということになります。
 
 本書では、この「非公開株式」について「法務編」(p1~174)、「税務編」(p176~379)の二部構成で解説しています。その中でも著者がオススメの非公開株式の自己株式の売買方法―「株主等からの譲渡承認請求を総会で不承認として、会社が買い取る方法」の紹介を軸に論が展開され、特に「法務編」では、その手法の考え方、運用上の留意点、から手続きの流れ、説例、その上、裁判所への書面の記載例まで付され、実に丁寧な説明を行っています。その点、「法務編」は、このオススメ手法の“ワン・テーマ”の本とも言えなくもありません。
 
 もし、この本が「譲渡制限株式の法務・税務」や「譲渡承認請求の法務・税務」という書名だったら、少し手に取りづらいですよね。ちょうど初版の出版の時期が「経営承継円滑化法」の成立時期。この業界の方も「税務上の時価」ばかりでなく「民法上の時価」「会社法上の時価」に対面せざろう得ない―という意識が芽生えていた頃でした。
 
 「非公開株式」という書名で、うっかり手を取ってしまい、「円滑化法ではないのか~」とお嘆きの貴方。ご心配なされないで下さい。「法務編」でイチ押しの「非公開株式の譲渡承認申請」とは、そもそもの問題の原点と言いますか、源流は違いますが、「税務編」では、これらの協議価額や裁判所の価額が「税務上の時価」となりうるのか―例えば「会社法上は、株式平等の原則により、配当還元方式は認められない」(p330)など、正に「円滑化法」でも議論となりそうな「本格論点」をカバーしたものになっております。しかも、煩雑な論点を整理し、かなり噛み砕いた表現をしており、語り口も柔らかい。図解や判例(税務編)も豊富です。無理なく読める本となっています。
 
 今回は本書の法務編について、「おさらい」をしてみたいと思います(今回は初版2008年による頁等です。その点ご容赦下さいませ)。

 
2. 譲渡承認申請してもらう方法
  ― 買取価格もオープンにならない!ピンポイントで特定株主から買取!

 著者の先生が非公開会社の行う自己株式の売買手法としてオススメしているのは、①まず株主等から譲渡承認請求を行い、②株主総会等(定款等で代表取締役に変更可能)の不承認と決定・通知(①の2週間以内)、③会社がその株式の買取を総会で特別決議(③の10日以内)による売買手法です(以下、本書は簡単に「譲渡承認請求してもらう方法」と言っています)。
 
 この手法のメリットは、「ピンポイントで特定の株主から買い取る」p52)、「買取価格がオープンとならない」(p49)ということに優れた手法であるからです。他の方法では、これらが実現できない可能性がある―ということです。
 
 本書では、会社が自己株式を取得する方法として19パターンを挙げ、「中心的な5手法」を下記のように整理されています(p44~45)。
第23回 図1訂正   

 本書p48には「自己株式の取得は、会社法155条に法定されています。その中でも非公開会社で一般に使えるように用意されたのが、同法160条「特定株主からの合意による自己株式の取得制度」です。そして多くの参考書には本制度が詳しく述べられています」とし、その手法では実現できないメリットが、上記のオススメの手法にある指摘しています。

第23回 image2
 
第23回 image3 

 「特例株主からの買取の手法」の場合には、「株主平等の原則」が重くのしかかるということになります。つまり、「①売主株主と事前に株数・金額などを打ち合わせて本人に通知するとともに、②他の株主に平等に知らせて、売る機会を与えなければならない」(p49)―ということになります。言い換えれば「株主総会において1株当たりの取得価格がオープンになり、売主追加請求権の保証をしなければならないということ」(p50)であり、「譲渡制限株式は、これまで一般の常識では売れないと思っていたのに、ある程度の金額で売れることが「通知」でも「総会」でも判ることによって“寝た子を起こす”ようなことになりはしないかという懸念が、会社によっては有り得ます」(pp50~51)。

 
 ただ、譲渡承認請求では、手続き上、法務局への「金銭の供託」「株券の供託」が必要とされるところがネックとはなっています。ただし、「金銭の供託」は、請求者の承諾があれば不要と解されており(p51)、「株券の供託」も、平成18年5月前に設立された会社で、既に株券不発行会社であるとの定款変更をしている株式会社を除き、株券不発行会社にする定款の変更を行うことでも不要と解されている(p52)とのことのようです。

 ただ運用上注意しなければならないのは、スケジュール管理。うっかりすると日数や供託を守らなかった場合等には、譲渡承認請求の承認をしたものとみなされるそうですみなし承認)。 これでは前提となる譲渡承認請求の不承認が崩れてしまいます。

 この「みなし承認」は特に「請求した日から2週間以内諾否を通知しない」というケースが多いと考えられるようです(p72)。普段ほとんどのない事態で不慣れなまま放置される場合もありますが、この「請求」が「書面」に限定されていない(会社法上では「口頭」でも可能となった)ため、請求者が意図的をもって口頭通知して「みなし承認」を主張する場合なども可能性はあるそうです(悪質ですね…。ただ「譲渡等承認請求は会社指定の書面による」旨の定款変更もできるようです)。
 

3. 譲渡承認請求による価格決定― ルートは3つ+α
 上記のオススメの「譲渡承認請求してもらう方法」によった場合、価格はどのように決定されるのでしょうか。この場合、友好的なケースと敵対的なケースとで状況がかなり変わってくるようですが、基本的には売買価格決定のルートは3つ+αとのことです(p82)。
1) 協議により合意した価格による
2) 裁判所での価格決定による
3) 供託金額による
 +α(県単位の弁護士会に設けられている「あっせん・仲裁センター」への申立て)
  友好的なケースでは、譲渡承認請求者と会社との協議により決定した価額(協議価額)となります。

 この協議がまとまらなければ、譲渡承認請求者と会社は「買取通知」のあった日から20日以内に、裁判所に申し立てをして「裁判所による価格決定」をしてもらう形になります。もしこの申し立てをしなければ、「協議不成立」となり、供託価額(協議不成立時の売買価格=1株当たりの簿価純資産価額×対象株式数)となります。
 

 評価方法としては、①配当還元方式(配当還元法、ゴードン・モデル)、②収益還元方式(収益還元方式、DCF法)、③比準方式(類似業種比準方式、類似会社比準方式)、④純資産方式(簿価純資産方式、時価純資産方式)、⑤これらの折衷方式(加重平均方式)などであるようです(これらについて裁判例を11件図表にして示しています。本書pp104~106)。

 
 税務的に考えた場合、どの価額に落ち着いたとしても、税務上の適正価格との関連の問題があり、その問題意識が「税務編」に繋がっていくことになります。特に、(2)の裁判所の価格の判断基準というものが、税務的には「おっ」と思えるものらしいです。本書p91~92には下記の様に記されています。
(譲渡制限株式の譲渡等承認請求がなされた場合の売買価格の決定等は)裁判所は株式の決定をするに際して、前項で述べたように「裁判所は、売買価格の決定をするには譲渡等承認請求の時における株式の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならない」とされています。
 ここにいう、「一切の事情」とは、次に述べる「公正な価格」とは異なり、旧法(旧商法204条ノ4第2項)と同様の表現になっており、「公正な価格」より、「一切の事情」の方が裁量の余地が大きいと思われます。
 株式会社又は指定買取人による譲渡制限株式の買取価格の決定場面においては「買受人の資力や株式会社の閉鎖性を維持することの必要性は株式の客観的な価値と関係ないので、考慮できない。また、株式を譲渡しようとする株主側の主観的事情や被指定者以外の第三者による買受希望価格なども」を考慮に入れるべきではないと解されています。
 学説上は、コントロール・プレミアムが考慮すべきとされています。確かに、新たに買い受ける株式を既存の株式と合わせることで指定買取人が新たに支配株主となり得るなどの場合はコントロール・プレミアムは考慮すべきかもしれません。しかし、「支配株主と非支配株主が同時に売買価格の決定を申し立てる」事態が生じた場合、株主平等の原則から異なる売買価格を決定することは考えられません。したがって、コントロール・プレミアムやマイノリティ・ディスカウント、非流動性ディスカウントも考慮すべきでないと解されています。(本書pp91~93)
  また、裁判所の価格決定によった場合、鑑定等のより長引くこともあり、「株主の譲渡も一種の契約で、当事者の気持ちが変化する「水物」的な要素」p86)が濃いため(いわゆる「心変わり」?)、細心の注意が必要なようです。種々のケースが鑑みると、実際の場面では「「譲渡承認請求」は価格についての協議終了後に提出してもらうような段取りが好ましい」(p86)とも言えるかもしれませんね。

 いずれにせよ、具体的な株式構成や株主との関係性(友好的・敵対的)により、かなり事情は変わってくるとは思いますが、この手法のメリット面は確かに無視できないような気がします。
 
 
4. 他の買取手法の問題―「相続人等からの強制取得」による「相続クーデター」
 以上が、著者オススメの自己株式取得の「譲渡承認申請してもらう方法」の大雑把な概要でしたが、「非公開会社」の譲渡制限株式の特有の問題があります。それは相続です。

 「譲渡制限株式であっても相続や合併のような包括承継には対抗できません」p22)とあるように、譲渡制限株式によっても、相続による株式の分散化はなかなか避けれない形になっています。そこで、相続される譲渡制限株式への対応としては上記の自己株式取得の「中心的な手法の5つ」のうちの①相続人等から合意による取得(会社法162)②強制的に取得する方法(会社法174)の二つがあります

 ②は、会社が相続により株式を取得した者に対して、その株式を会社に売り渡しを請求することができる旨を定款に定めることを前提に、相続等があったことを知った日から1年以内に売渡の請求ができるという規定で、相続人等は拒むことができません。ここで「相続クーデター」という論点が出てきます。つまり、
強制買取決議を行う株主総会については、買取請求を受けた相続人等は議決権を行使できませんので(法175②)、オーナーサイドに相続が発生した場合に、100分の3以上の議決権をもつ少数株主グループが株主総会を招集して(法297条②④)、オーナーに係る相続株を会社にて強制買取が可能となります。いわゆる相続クーデターです。(本書p26)
  これらについて、元々「会社法の目玉」として「相続人等に対する売渡し請求」(会社法174~177)により手当された制度なのですが、安易に定款等で定めてしまうと、オーナー株主の相続開始時において、少数株主による会社の乗っ取りの危険性、いわゆる「相続クーデター」問題が生じるケースがあります。著者は、これを「立法上の瑕疵」(p26)である―と述べており、極めて慎重な対応が必要と指摘しています。
 
 本書は次のような具体例を示しています(p27)
 
【具体例の要約】 p27~28
 取締役会非設置会社
 社長51%、社長の奥さん16%、専務20%、常務13%の株主構成であった場合
 ・  平時には社長夫婦で67%有し、特別決議ができる安定した会社
 ・  社長が亡くなり、社長の持株を奥さんが相続したときに、専務・常務が臨時株主総会を招集。葬儀の疲れがある奥さんは、訳も解らず招集通知を受け総会に出席。
 ・  奥さん・常務・専務の3名で総会を開催。「当社の定款には相続人に対する株式売渡請求ができる規定がある。そこで奥様が相続された社長の株式51%の会社の売渡を請求する件、採決します」と諮る。
 ・  この議決には、奥さんは会社法の規定により議決権の行使ができない。よって、残る専務20%、常務13%が議決権の全てとなり、満場一致の形で可決
 ・  その結果、社長の株式51%は金庫株となり、議決権がなくなる
 ・  その後の代表取締役の選任決議で専務が社長に就任。社長に掛けてあった保険金も、奥さんからの相続株式の買取りに使われ、社長への死亡退職慰労金決定額も少なくされる
 
5. 感想等
 本書も非常に有難い本です。自己株式の法務面について、分かっていたつもりで、実用面で、実は全く分かっていなかった…と反省しております。ここまで噛み砕いて記していただくと、非常に助かります(オススメの手法、相続クーデター―不勉強でした…)。「価格がオープンになる」「(手続き等で)寝た子を起こす」「(契約は)水物的」など、かなり実務上の交渉局面でしか分からない点等も多々記されていて、弁護士さんの話を聞いているようでした。正直、私如きでは、もう少し読み込まないと真意が分からない点も多々あろうかなと思いますので、新版も熟読しなければ…と思っております。次回は税務編です。

【加筆修正・題名変更】 2012/11/25



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