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第25回 株式評価の周辺(12) 組織再編成による自社株対策の落し穴―高収益部門を分社型分割する場合

平成21年10月改訂 新時代の相続税対策の徹底検証
 奥村眞吾、清文社、2009年
新時代の相続税対策の徹底検証―平成21年10月改訂新時代の相続税対策の徹底検証―平成21年10月改訂
(2009/11)
奥村 眞吾

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[購入動機] 書名
[コメント] 図表は豊富。話題としては網羅している「総論的」な本です。トピック自体の深堀りはしていないので「対策本」という感じではないですね。株式についての具体的な設例の数値計算等は少し怪しいところがあるような気がしますので、よくよく見直してからお使いになられると良いと思います。
【今回の記事の目次】
 1. 市販の書籍でも間違いはあるかも
   ―「上げ足」を取らずに「よくある間違い」として読んでみる!  
 2. 本書解説による株価計算 ― 分社型分割の事例
 3. 本書における株価計算の検討  
 4. 本書の事例で甲部門(高収益部門)を分割法人とした場合
 5. 本書の事例で分割型分割を行った場合
 6. 感想等


1. 市販の書籍でも間違いはあるかも
  ―「上げ足」を取らずに「よくある間違い」として読んでみる!
 ブログを書き始めて1ヶ月経ちますが、なかなか誤字や脱字がなくなりません。そればかりでなく、読み返してみると、間違った話や、誤解を招きやすい表現などに、後から次々気がつく有様で…穴にあったら入りたい気分の1ヶ月間でした。 

 私の場合は、好きで書いていますし、単に本人の能力不足ですから自業自得なのですが、書籍を出版する先生方は多忙な中での出筆でしょうから、さぞかし大変であろうな…と想像します。ですから、最近は購入した本に、たまに出くわす「あれ?」という表現にあたっても、あまり怒る気持ちにはなりません。「これは「よくある間違い」の「良い勉強材料」を提供しているんだ…」と思うようにしています(自分に言い聞かせている?ようですが…) 。

 今回は、「組織再編成による自社株対策」「良い勉強材料?」を提供しているものがありましたので取り上げたいと思います。不幸にも単純な数値ミスや配慮不足が重なってしまっている上に、読者には判りづらい前提を記載せずに、ミスリードしてしまったような部分があるのが、本書のケースです。

 ただ、一言申し添えておきますと、この本はもともと自社株対策そのものを掘下げるものでなく、相続全般の対策事項を「広く浅く」、網羅的に解説することを目的としたものです。従って、「上げ足」取りのようなことをしてしまうのは、少し気が引けるところがありますし、この説明が上手くいっていれば、とても良い例であったのになあ―と感じます(一方で、クライアントが「コレを見てやりました」―と言われると本当にキツイなあ―とも思います)。

 本書pp250~255には、次のような設例を設けて、よくある会社分割による自社株の株価引き下げ策を提示しています。

【例示】
 A社は、甲部門(自動車車体・部品製造業)を乙部門(電球・電気照明器具製造業)を併設する会社です。従前は乙部門が主流でしたが、最近では甲部門が急成長し、A社利益のほどんどを占め、反対に乙部門は衰退の一途で、このままでは赤字に転落しそうです。
 なお、A社は大会社に該当します。このような場合において、A社の企業再編成制度を利用して、事業承継対策に役立てるためには、どのような方法が考えられますか。なお、A社の今期の貸借対照表および損益計算書は下記のとおりです。

25-0.jpg 
25-2.jpg 
 (本書p250)

 狙いとしては、次のような会社分割を「適格分社型分割」で行い、高収益部門(甲部門)を分社化して低収益部門の子会社(B社)として、オーナーは低収益部門のみとなった会社(A社)を類似業種比準価額で評価したい―というところだと思います。

25-1.jpg 

2. 本書解説による株価計算 ― 分社型分割の事例
 
本書pp251~253に記載されている株価計算は下記のようになります。 
25-3差替
 これによって、オーナー株式の評価額は、7億3,200万円から2億3,300万円による株価引き下げ策(▲4億9,900万円)が実行されるとのことです。具体的な計算式は下記のとおりです。 

25-4.jpg  


3. 本書における株価計算の検討
 
私ごときが、あれこれいうのも何ですが、この事例は、あまり上手い感じなっていない気がします。

① 分割後の会社の「会社規模」が変わっていることのコメント漏れ
 本書の株価計算ですが、まず一見して「これって、大会社25%以上だから、株式保有特定会社じゃない?」と感じると思います。ここで本書の説明が弱い部分ですが、まず、この会社の乙部門をわざわざ「卸・小売以外」の業種で売上15億、総資産6億という会社にしたかというと、この分割後の会社は、会社規模が100人未満ならば、「中会社の大」になるという設定にしたかったもの―と想像します。「会社規模」の変更が行われ、株式保有特定会社の判定が50%となった―というストーリーにしたかったということではないでしょうか。それならば、この辺を文章で触れておいてあげないと、読者は問題文の「大会社」という前提のままで読んでしまうのではないでしょうかね。察するに、数字の設定はしたけれども、著者御自身がこの設定自体を忘れてしまった―というところでしょうか。結果として、残念ですが、不親切な感じになってしまいましたね。

② 新設分割承継法人が「開業後3年未満の会社」に該当すること
 ここで会社規模が「中会社」に変更され、株式保有特定会社の判定ラインが50%となったからといって、株式保有特定会社に該当しないか―といえば、その辺りの設定も甘かった感じになっています。まず、このA社が保有するB株式が大会社で類似業種比準価額を採った時に低い価額になれば、株式保有特定会社に該当しないということになりますが、分割後3期についてはB社は「開業後3年未満の会社」に該当することをコメントしておかなければなりません。
 分割直後にA社は簿価ベースの保有割合が50%なのですから、含み益3億のB社を純資産価額で評価すれば、分割3期ぐらいは、A社は株式保有特定会社に該当することなります。これはB社の利益を配当でA社に還流しても、割合が変えられそうにない感じですね。

③ 3期待ったとしても、A社は株式保有特定会社になってしまう。
 では3期待ったところで、A社は株式保有特定会社に該当しないこととなるか―といえば、そうもなっていません。B社の類似が高い数値の設定になってしまっているのですね。ここでB社の評価額を示さなかったのは、少し不親切かなと思いますが、もともと、子会社として高収益の会社をぶら下げた場合には、時間が経っていけば「株式保有特定会社」になりやすいということは容易に想像できます(第14回参照)。このあたりの対策までとは言いませんが、注意喚起がないというのも、残念なところです。

25-5.jpg 

25-6.jpg

④ 他の分割手法
 ― 株式保有特定会社なら、却って高収益部門を分割法人としたり、分割型分割の方が良い?
 ③と重なる部分もありますが、計数設定が甘いので、このスキームが株式保有特定会社となってしまえば、却って高収益部門を分割法人とした場合や、分割型分割を用いたスキームの方が株価引下げ効果がある感じになっています(これについては各々後述します)。 事例に適った計数になっていないのが本当に残念ですが、他の分割パターンについても、数行でも触れれば良いのになとは感じます。

⑤ その他―単純な計算ミスなど
 本書pp253~254にA社の分割後の類似業種ですが、評価会社の(B)の値が5と記載がありますが、乙部門10,000,000円÷1,000,000株(資本金等の額50円ベースの株数)=10円ではないでしょうか?B社の発行済株数2,000,000株と混同していないとよいのですが…あと、斟酌率は中会社の意識があれば、0.6としていると思いますが、やっぱり大会社のつもり?だったのでしょうかね。その他21年10月改訂版の割には、会社法施行前後の評基通改正のところをカバーしているのかな?と思われる表現が少しあるのが心配ですね。

と気がついたところを記してみましたが、どれも自分でも「やってしまいそう」なところですね。他人事でなく非常にナーバスな論点だなと思います。


4.  本書の事例で甲部門(高収益部門)を分割法人とした場合
 では、本書の設例で甲部門を分割法人とした適格分社型分割をした場合の計算をしてみましょう。

25-7.jpg 
 具体的な評価額の計算は下記のとおりです。
25-8.jpg 

25-9.jpg 

 この場合でも、分割後3期は分割承継法人は「開業後3年未満の会社」になっていまうのでは、と感じております。ただ低収益の会社が評価会社A社ぶら下がっていますので、株式保有割合は何とかセーフかと…。そこで3期経過後は、B社の評価は、大会社でも、中会社の大でも、かなり類似の要素を盛り込めますので、純資産価額が下がる感じになりますね。やはりA社の類似が高めの設定ですので、採用される評価額は、純資産価額の方となります(オーナー持分 6億5,100万円)。 ただ全体的に言えることですが、わざわざ分社化する必然性が経営上あるか否か等の総合的な判断が必要となるでしょうね。

 あと、ここで関連論点として少し気になるところがあります。会社分割は、評基通186-2(2)の「現物出資受入差額部分の法人税額相当額の控除不適用」の適用があるかどうかという論点です。これは「適用がある」「適用がない」の2説あるようですね。

【参考】 T&A Master No.402 2011.5.16
http://www.lotus21.co.jp/ta/1105jhfs/402_04.pdf

 まあ、この記事には納得感がありますね。私が存じ上げている範囲で申し訳ないのですが、上記PDFで「適用がない」説を記している書籍の一つが、第15回で取り上げた新版 詳説/自社株評価Q&Aです。 このあたりの理解の前提として、H13企業組織再編成より前の合併・現物出資の会計・税務でどのような処理がされていたのか分かっていないとイメージが掴みづらい思います。そちらについては、第7回などで取り上げたM&Aと営業権(のれん)の税務が参考になると思います。

5. 本書の事例で分割型分割を行った場合
 また自社株対策として、オーナーが息子兄弟に経営権を分けて経営承継する場合などには、分割型分割を採用する方法もあります。この事例を、仮に分割型分割(適格分割型分割)で行った場合は下記のようになります。

25-10.jpg

 具体的な評価の計算は下記のとおりです。
25-11.jpg 

25-12.jpg 

 この場合、A社・B社の株式を直接オーナーが所有しますので、A社・B社の株式保有特定会社の考慮はなくなります。ただB社は開業後3年未満の話は、ここでもついてまわる形になります。上の場合も、利益が分割される効果で少し評価額が下がる形になりますかね(オーナー持分6億5,900万円)。

6. 感想等
 本書の設例は残念なところもありましたが、上のとおり、非常にいろいろなことを考えさせてくれました。それはそれで大変有難いことだと思います。そう考えると設例のチョイスとしては悪くはないのだなあ―と感じます。 図表も整理されていて、相続対策のパンフレットのような作り(広く浅く)ですので、FPの方などが読むには良いものだと思います。

 私も上で書いた数字は自分で何度か見たつもりですが、他の方のダブルチェックを受けていないので、合っているのかどうか…本当に不安です(間違っていたら本当に申し訳ございません)。実際にやってみると本当に大変ですね。そう考えると書籍で数値を入れてくれる方には、頭が下がります(第22回の松本先生の持ち合い計算には多謝です!)。特に今回のケースは、なるべく読み手の負担を減らそうと、「簡単な例」に持っていこうとしたフシがあるので、この章であと2頁くらい余裕があれば、諸前提をもっと整理できたものになっていたのではないでしょうか。そういう場合であっても、資料は「一人歩き」してしまうので…とても他人ごとではありません。

 また、このあたりの提案は、評価引下げ面ばかりに走ってしまうと、経営面や他の面でいろいろ問題があるかもしれませんね。まさに「総合力」が試されるところ。まだまだ私には、修行が必要そうです。
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