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元会計事務所員。税務・会計関係の『積読本』消化をめざして立ち上げた感想文ブログです。

第2回 営業権・のれん考(2) 連結納税等の自己創設営業権問題

「組織再編成におけるのれんの税務」
 佐藤信祐著 中央経済社 20086

組織再編におけるのれんの税務組織再編におけるのれんの税務
(2008/05)
佐藤 信祐

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[購入動機] 書名・著者
[コメント] この論点はホントに困ったところですね
[3] 今でも引っ掛っている!?
   連結納税・非適格株式交換等の自己創設営業権計上問題
 (1) 自己創設営業権計上問題の端緒
 (2) 著者の立場―営業権の時価評価の可否
 (3) 感想等
 (4) 本書刊行後の状況(参考HP)

 前回に引続き、こちらの本の御紹介です。

 もう一つの本書の特徴・魅力として、かなり踏み込んだ私見を示されていることも挙げられます。この点については、本書「はじめに」でも著者の先生も触れられていますので、かなり自覚的に論を張っていらっしゃるようですね。


 特にp209で触れている「営業権の時価評価の必要性」の箇所のことを言っているのかな?…と個人的には感じます。本書刊行の当時でここまで言ってくれる方や、拠るべきものも少なかったことを考えると、是非はともかくとして、非常に有難かったことを覚えております(現時点でもあまり触れたくないところ―と思っている方が多数ではないでしょうか)。


[3] 今でも引っ掛っている!?連結納税・非適格株式交換等の自己創設営業権計上問題


(1)
 自己創設営業権計上問題の端緒 


①平成14年 連結納税制度導入

 連結納税開始・加入時の時価評価課税と株式交換・移転に係る時価評価課税は、類似の規定ぶりです。

 連結納税で言えば、連結子法人は「単体納税」から「連結納税」への切り替えのタイミング(連結開始又は加入時)で、保有資産を時価評価し含み損益を吐き出して、異なる納税制度に移った先でフレッシュスタートして下さい(特に損は新納税主体に持ち込まない!)―という趣旨の規定です。

 この時価評価の対象となる資産は、単体納税でも用いられる「固定資産」「土地等」「金銭債権等」「有価証券(売買目的有価証券除く)」「繰延資産」のリストをそのままコピー&ペーストしてきたようなものですから、連結納税導入(H14)当時から、時価評価対象の「固定資産」リストの中の一つに「営業権」に挙げられてしまった結果(法令12二、13八ル)、連結開始前に認識していなかった「営業権」も、連結開始を機に時価評価しなくてはいけないのか?―という議論が少なからずありました。

(※)当時の議論が察せられる記事がネットにありました。

経済界、連結納税時の「営業権」時価評価、実質不適用を要望(2002/12/05

http://www.e-hoki.com/tax/taxlaw/85.html


②平成16年税制改正

 ただ上記の連結納税開始・加入という税務上の特有の条件で、会計上は計上されない税法固有の営業権が生じるとしたとしても、連結時の評価益で計上された営業権は、前提となる「償却費としての損金経理」を欠いているため、税務上計上したとしても、損金化することができないのではないか?―という指摘が当初からありました。

 この点についてH16改正で償却計算の改正により損金化が可能となりました。本書で紹介の通り、「平成16年版 改正税法のすべて」(大蔵財務協会p161)に

「自己創設した営業権のように時価評価により計上された減価償却資産については、その帳簿価額が評価益に相当する金額であることから、その帳簿価額の全額が損金経理額とみなされることとなります。」

との記載があるようです(みなし損金経理の措置)。

 このような経緯から、

「立案担当者が連結納税の開始・加入に係る時価評価の対象資産として営業権を念頭においていたのは事実である」(p209

と考えられているようになりました。


③平成18年税制改正

 本書の出版の契機となったであろうH18改正では、非適格再編成の受入処理の整備とともに、措置法であった株式交換・移転の特例が本法の組織再編成税制の中に組み込まれることになりました。

 そのため、本書でも「非適格」の株式交換・移転の論点として取り上げられています。ここでは資産調整勘定等との概念整理の関係で次のことに触れられています(p209210)。

 「また平成18年度税制改正により、非適格組織再編成、事業譲渡における営業権に係る規定が資産調整勘定の規定に改められ、営業権については「独立した資産として取引される慣習のあるもの」に限定されたが(法令12310③)、「平成18年 改正税制のすべて」367頁において、「なお、これによって営業権の一般的な概念を画したものでなく、あくまで差額概念である資産調整勘定(あるいは差額負債調整勘定)を算定するためのものであることに留意しておく必要があります」と解説しており、条文上も法人税法施行令第13条の定義規定を修正していないことから、非適格株式交換・移転、連結納税開始・加入に係る時価評価については、この規定は適用されないというのが条文上の解釈である。」

 有り体に言えば、税務上の「のれん」と「営業権」の区別は、「資産調整勘定等」の論点であり、非適格株式交換等と連結納税の時価評価の取扱いには絡みません―ということらしいです。


(2)
 著者の立場―営業権の時価評価の可否

 上記の通り、ナーバスな話題にもかかわらず、出版当時としても踏み込んだ意見を示しています。

「(改正税法のすべての記載されている文言から)立案担当者が営業権に係る広範な時価評価課税を念頭と置いていたことは推定できるものの、条文上「分離して譲渡可能な無形資産」以外の営業権については、時価評価課税の対象とすることは困難であると考えられる」(p211

 頭の悪い私では、なかなかこの推論過程を示すのは難しいところではありますが、著者の立場として、ます会計的な理解を出発点としていることは分かります。

 以下本書p210からp211の記述を、私なりにまとめると、次の通りとなります。

 ① 会計制度の営業権(借用概念)から説明  ―  営業権評価は「分離して譲渡可能な無形資産」だけが可能

 ② 認められている営業権の評価方法からの説明  ―  評価した結果としてもゼロ評価となる

 ③ 制度上の問題点からの説明  ―  営業権と資産調整勘定との二重計上が現状では整理されていない

① 会計制度の借用概念としての説明―営業権評価は「分離して譲渡可能な無形資産」だけが可能。

(イ) 営業権の定義は、法人税法上明記がなく、会計制度の借用概念であることが通説である。

(ロ) ここで、会社法と企業結合会計の施行により、BS計上されるべきものは「営業権」でなく、「のれん」となった。

(ハ) 企業結合会計基準においては、「のれん」を差額概念、「営業権」を超過収益力と捉えている。

  厳密には両者は異なるものであると言われていることから、株式交換・移転における時価評価については、差額概念としての営業権を 
  計上すべきという考え方は採用できない。

(ニ) また、結合基準注解19では、「営業権のうちのれんに相当するもの及び連結調整勘定は、のれん又は負ののれんに含めて表示す
  る」と規定していることから、営業権として表示されるものは「のれん」に配分することがない限定的なものと言わざるを得ない。

(ホ) その結果、現行会計基準として営業権を評価する場合とは、企業結合会計基準に規定する「分離して譲渡可能な無形資産」として配
  分できる場合を意味することとなる。

(ヘ) とすれば、ほとんどの営業権の場合は、会社の事業と分離することができないため、営業権として分類されるものは限定的となる。

(ト) 確かに、一部の業種では「1単位=100万円」のように売買される営業権もある。このようなものは「分離して譲渡可能な無形資産」に
  該当するケースといえる。ただし、1単位の含み損益が1000万円以下ならば時価評価不要の規定も法人税法にはあることから、計上
  不要のケースがほとんどと推定される。

(チ) 従って、事実上、営業権の時価評価課税を行うことができない。 ※私の要約です。


② 認められている評価方法からの説明―評価した結果としてもゼロ評価となる

 連結開始・加入の時価評価に係る法基通123-2-1において無形固定資産の評価方法として、「課税上弊害がない限り」、取得価額を基礎とした旧定額法により計算した未償却残高を時価とすることを認めている。とすると取得価額が0なので、ゼロ評価の結論を得るという論法です。


③ 制度上の問題点からの説明―営業権と資産調整勘定との二重計上が現状では整理されていない

この論点を要約すると、次のようになります。
(イ)  資産調整勘定の計上がされる場合において、営業権の時価評価を行ったときは、その資産調整勘定の取崩を行うことができないことから、資産調整勘定と営業権が二重に計上されてしまうケースが存在する。
(ロ)  資産調整勘定に係る規定を変えない限り、営業権の時価評価を要請するのは制度上問題がある。

また

「課税当局や税務専門家の一部においては、税務調査や税務訴訟を通じた営業権の時価評価に係る実務慣行が定着していくという考え方もあるが、営業権の定義そのものが曖昧なままでは実務慣行の構築は難しい」

「私見ではあるが、将来の税制改正により、営業権の時価評価については、資産調整勘定または差額負債調整勘定に織り込んでいくことにより制度の明確化をはかっていくべきであると考える」(p212p213

とも述べており、

「将来的には、企業会計基準委員会において、無形資産に関する会計処理について包括的な会計基準の構築が検討されていることから、無形資産の範囲が拡大することも考えられ、(中略)上記のような制度上の問題は早期に解決されることが望ましい」(p212

と結んでいます。


3) 雑感など

 これらの意見も、営業権・のれんの会計的な「本質観」を持っている方ならではの問題提起だと感じました。これが税理士の先生ならば、特に上①と②については、連結納税等の時価評価の規定に関しては現行の法人税法上、直接には税務上ののれんである「資産調整勘定」の規定には及びませんので、連結納税等の場面では、ただ広義の「営業権」の話の枠内として対応するしかない―という議論で止まってしまうような気がします。(この辺りを乗り越えた話をしたいものですが…。)

 ただ、①については、素朴に感ずるところですが…上記の会計概念からの自己創設営業権不計上の論法は、会計サイドのH18の企業結合会計基準の制定により整理された訳で、単純化すれば

H18企業結合会計基準 前) なんとなく 営業権 ≒ のれん (ほぼ同義語。差額と超過収益力が混在)

H18企業結合会計基準 後) 営業権 ⊃ のれん (差額と超過収益力を区分する方向)

となっているように建て付けとなります。が、H18の話を以て、税務サイドでH14から議論されている自己創設営業権計上問題の整理することとなると、それはキチンとした疎明になるのかな?…という気もします(後先の話であって、理論的な話ではありません。些末なところなのですが…)。

 いずれにせよ本書の先生がおっしゃるように「営業権の定義そのものが曖昧なままでは実務慣行の構築は難しい」とのご指摘に尽きる―と思われます。

 ②については、誰しも思うことですが、実際に「課税上弊害がない」と抗弁しきれるかどうか…ですかね。

 ③は、は①と少し方向性が違う指摘で、会計上の「営業権」と「のれん」は概念として区分されるが、税務上の「営業権」と「資産調整勘定」は重畳的なところがあり運用が難しいのでは―という指摘です。

 もともと営業権の評価自体も、資産調整勘定ばかりでなく、財産評価基本通達で考慮しているような他の無形固定資産との二重性のようなものも、内包しているような気がするので、私も問題が多いとは感じます(中々、実在性を証明できるものでもないので、慎重な対応が求められるところではないかと考えます。)

 これも結局は、「営業権の定義そのものが…」ということになります。


4)本書刊行後の状況 (参考HP

 ネットで検索すると営業権の論文は割と多く引っかかりますね。他のブログサイトなどを拝見しても、最近はよくこの話題に触れる方が、また増えてきたような気がします。ネットで見られるところとすると


①平成214月 日本公認会計士協会

租税調査会研究報告第18号「連結納税制度を適用する場合の実務上の課題についての検討」

http://www.hp.jicpa.or.jp/specialized_field/18_13.html

P20で「時価評価資産」として「事業全体の価値から計算された営業権が考えられる」との記載があります。本書の「分離して譲渡可能な無形資産」だけが計上可能ではないかという立場とは違うようですね。

 また、日本公認会計士協会は、平成24年度改正意見・要望書のp10の(13)で「組織再編税制及び連結納税制度の開始又は加入に当たり、時価評価対象資産に自己創設の営業権が含まれないことを明確にすること」の要望を行っています(ここでは、時価評価対象資産に超過収益力としての営業権が含まれるか否かが明らかでないという指摘をしています。)

平成24年度税制改正意見・要望書(平成2482日)

http://www.hp.jicpa.or.jp/specialized_field/24_6.html


②平成2112月 企業会計基準委員会 「無形資産に関する論点の整理」

あと本書の先生が触れられている「無形資産の会計処理」については、本書の刊行後では、H21.12に企業会計基準委員会より、「無形資産に関する論点の整理」の公表されております(で、一体、いつまとまるのでしょうか…)。

https://www.asb.or.jp/asb/asb_j/documents/summary_issue/intangible_assets/


③平成2212月、平成233月 TKC連載記事 (中野伸也先生の私見)

平成22年から連載のTKCの先生の「連結納税への対応ポイント」として述べられたもので、自己創設営業権に触れています。本書の議論と共通する部分もあります。会計・税務の従事している先生から見れば、割と自然な発想なのかもしれませんね。

(参考)TKC HP 

201012

http://www.tkc.jp/bigcompany/webcolumn/20101220001814.html

20113

http://www.tkc.jp/bigcompany/webcolumn/20110328002241.html


平成2472日号 国税速報 6221

連結納税開始時における自己創設のれん(営業権)の時価評価についての考察

/ 西村あさひ法律事務所 弁護士 錦織康高先生

朝日新聞社Website「法と経済のジャーナル Asahi Judiciary」に同先生の掲載記事があります。

連結納税制度についての近時の問題点~「自己創設のれん」についての時価評価課税の是非

平成24627

http://astand.asahi.com/magazine/judiciary/outlook/2012062200006.html


平成20年の本書のご指摘から、あまり進展もなく…といったところでしょうか。

まあ、今に至っても困ったところだな…というのが本音でしょうかね。


 著者の佐藤先生のご著書は、本書に限らず、かなり踏み込んだお話も多いので、非常に考えさせられることが多いです。従って、本書を組織再編成のリファレンス用として活用することを期待するというよりは、自分の取扱っている案件の疎明に苦しくなったときこそ、真価を発揮するような気がします。ハマれば、これ程心強いものもなかろうな―と想像しながら読ませて頂いていることが多いですかね。


 何といっても、先生の書籍は、書名だけでもすぐに買いたくなってしまうようなものばかり…お陰様で、私のお小遣いの残余は限りなくゼロに近い状態です。「のれん」の計上問題の心配はありませんね(笑)

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2012-10-24 : 営業権・のれん : コメント : 2 : トラックバック : 0
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No title
とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。
2013-04-04 12:56 : 投資 URL : 編集
Re: No title
> とても魅力的な記事でした!!
> また遊びに来ます!!
> ありがとうございます。

ご訪問有難うございます!
拙い文章なのに…最後まで読んで頂き恐縮です。
「投資」さんのサイトは整然として読み易いのに、当ブログのレベルは恥ずかしいです…(泣)

更新もままならない時のありますが、
お暇なときにでも遊びに来て下さいませ<(_)>
2013-04-04 18:39 : kiyusama31 URL : 編集
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※H25.9 税理士開業致しました!
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