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元会計事務所員。税務・会計関係の『積読本』消化をめざして立ち上げた感想文ブログです。

第30回 株式評価の周辺(17) 「S1+S2」方式の課題-ⓓの意味と「S1」の計数操作性

平成19年1月改訂 具体事例による財産評価の実務-相続税・贈与税-Ⅱ
 笹岡宏保著、清文社、平成19年
具体事例による財産評価の実務 相続税・贈与税―平成19年1月改訂具体事例による財産評価の実務 相続税・贈与税―平成19年1月改訂
(2007/02)
笹岡 宏保

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[購入動機] 書名・内容
[コメント] 評価必携の本だと思います。
制度導入時の取扱いやマニアックな論点も網羅していました。 ※平成22年版が最新版です。
【今回の記事の目次】
 1.  S1+S2方式とは
 2. ⓑⓒⓓの考え方
 3.  ⓓは何を表現しているのか?(私見)
 4. S1の計数操作性(私見)
 5. 感想等
明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願い致します。
最近更新が疎かになっておりますが、気をひきしめて積読本の消化に努めたいと思っております。



1.
  S1+S2方式とは
 今回は、「S1+S2」方式のⓓの意味や、S1の計数としての操作性について、本書の記述を用いて記してみたいと思います。手許に平成19年1月改訂版しかないので、その点ご容赦頂ければと存じます。
 
 本書(平成19年1月改訂版)では、16頁(pp1359~1374)にわたり、株式保有特定会社の評価が解説されています。その株式保有特定会社の簡易評価方式として、評基通189-3但書きに、いわゆる「S1+S2方式」が規定されており、本書p1362において下記のように解説されています。
[本書p1362]
 株式保有特定会社の株式の評価は、原則として(3)の1株当たりの純資産価額(相続税評価額により計算した金額)により評価しますが、この場合において納税義務者の選択により、純資産価額による評価に代えて次の「S1の金額+S2の金額」の方式により計算することができます(評基通189-3ただし書き)

〈株式分離評価方式(S1+S2)による評価〉
30-image1.jpg

 この取扱いは、株式保有特定会社については、評価会社が有する会社の株式自体の価値を重視して、当該他の会社の株式の価額が評価会社の株式の評価額の計算に直接反映されるような評価方法(純資産価格方式)により評価することを原則としていますが、株式保有特定会社に該当する会社であっても、相当の規模で実態のある事業活動を営む会社も数多く存すること、また、この株式保有特定会社に該当するか否かの判定割合が土地保有特定会社の判定に比して低く設定されているので、例えば大会社の場合、株式の価額が総資産の価額のうちに占める割合が25%以上であるならば、他の75%部分の資産が評価会社の実際の営業活動のために投下された資産であっても、全体を純資産価額で評価することを強要することとなり不合理であるので、納税義務者が、株式保有特定会社について株式の保有に係る部分以外の要素により計算した価額(S1の金額)株式の保有に係る要素により計算した価額(S2の金額)とに区分してそれぞれの評価額を各別に求めて、その価格の合計額をもって株式保有特定会社の評価額として計算しているときはその計算を認めるとしたものです。
 
1]S1の金額
S1とS2の具体的な計算方法は下記の通りとなります(本書pp1362~1365)
[本書pp1362~1365]
 S1の金額は、評価会社の所有株式・受取配当収入がなかったものとした場合の原則的評価方式により評価会社株式を評価した金額とする。

(イ) 原則的評価方式で類似業種比準方式による計算を行う場合
30-image2.jpg
A=類似業種の株価
B=課税時期の属する年の類似業種の1株当たりの配当金額
C=課税時期の属する年の類似業種の1株当たりの年利益金額
D=課税時期の属する年の類似業種の1株当たりの純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)
Ⓑ=評価会社の1株当たりの配当金額
Ⓒ=評価会社の1株当たりの利益金額
Ⓓ=評価会社の1株当たりの純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)
ⓑ=Ⓑ×「受取配当金収受割合」(注1)
ⓒ=Ⓒ×「受取配当金収受割合」(注1)
ⓓ=(イ)+(ロ)(注2)
 (イ)=Ⓓ
  ×(株式等の帳簿価額の合計額/総資産価額(帳簿価額によって計算した金額))
 (ロ)=(利益積立金÷直前期末における発行済株式数(50円換算))
  ×「受取配当金収受割合」(注1)

(注1)受取配当金収受割合
1 受取配当金収受割合は、1以下とします。
2 受取配当金額は源泉所得税控除前の金額となります。
3 端数処理(小数点以下3位未満の端数切捨て)に関する取扱いは、「相続税及び贈与税における取引相場のない株式等の評価明細書の様式及び記載方法等について」において明示されています。
(注2) ⓓは、Ⓓを限度とします。

(ロ) 原則的評価方式で純資産価額方式による計算を行う場合
30-image3.jpg
(注)S1の金額を純資産価額(相続税評価額)によって計算する場合には、同族株主等の保有議決権割合が50%以下であるときであっても、当該純資産価額に対する80%相当額評価の規定の適用はありません。
※法人税等相当額(42%)は出版当時の記述です。

(ハ) S1の具体的な金額
[比準要素数1の会社の株式要件を充足しない株式保有特定会社に係るS1の計算方法]
(大会社) 上記(イ)で計算した類似業種比準価額 ※または上記(ロ)の純資産価額
(中会社) 上記(イ)で計算した類似業種比準価額×L + 上記(ロ)で計算した純資産価額×(1-L)
 ※Lの割合は、中会社の中の規模区分に応じ、3種類(0.60・0.75・0.90)に分類されます。
(小会社) 上記(イ)で計算した類似業種比準価額×0.50+上記(ロ)で計算した純資産価額×(1-0.50)

[比準要素数1の会社の株式要件を充足する株式保有特定会社に係るS1の計算方法]
 上記(イ)で計算した類似業種比準価額×0.25+上記(ロ)で計算した純資産価額×(1-0.25)

2] S2の金額
 S2の金額は、株式保有特定会社が所有する株式等のみを評価会社が有する資産であるとした場合の1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)によって計算した価額をいいます(評基通189-3(2))。
30-image4.jpg
(注)S2の金額を純資産価額(相続税評価額)によって計算する場合には、同族株主等の保有議決権割合が50%以下であるときであっても、当該純資産価額に対する80%相当額評価の規定の適用はありません(本書p1367)。
※法人税等相当額(42%)は出版当時の記述です。
 
 
 
2. ⓑⓒⓓの考え方
 本書では有難いことに、上記ⓑⓒⓓの計算式の「考え方」が示されています(本書pp1366~1367)
 

 

計算式

考え方

Ⓑ×「受取配当金収受割合」

評価会社が他社の株式を保有することにより受ける利益(受取配当金)から支弁されたと考えられる支払配当金部分を計算して除外するものとする。

Ⓒ×「受取配当金収受割合」

評価会社が他社の株式を保有することにより受ける利益(受取配当金)から構成されていると考えられる利益金額を計算して除外するものとする。

(イ)+(ロ)

(注)(イ)+(ロ)がⒹよりも大きい場合はⒹを限度とする。

(イ)

評価会社が他社の株式を保有することにより受ける利益(受取配当金)から構成されていると考えられる純資産価額を計算して除外するものとする。

[計算式]

Ⓓ×株式の帳簿価額の合計額/総資産価額(帳簿ベース)

(ロ)

評価会社が他社の株式を保有することにより受ける利益(受取配当金)から構成されていると考えられる利益積立金額を計算して除外するものとする。

[計算式]

利益積立金額/直前期末における発行済株式数(50円換算)×「受取配当金収受割合」

(本書pp13661367。一部加工)

 上記に掲げる受取配当金収受割合を適用する類似業種比準価額の計算は、通常の一般の評価会社に用いる類似業種比準価額の計算方法から、株式保有特定会社の有する株式の保有が当該計算に与える影響度合をしんしゃくして控除したものであるとされています。なおこの算定において、「受取配当金収受割合」が使用されるのは、本来、他の会社の株式を保有することによる影響度の計算は、理論的に精密に行われるべきであると考えられますが、株式評価における評価の統一性や簡便性の観点から比較的算出の容易なこの割合を使用することとされています(本書p1367。一部省略)。
 
 
3.  ⓓは何を表現しているのか?(私見)
 ここでわかりづらいのが、上記算式中のⓓの意味です。「株式評価における評価の統一性や簡便性の観点」より「受取配当金収受割合」を用いるという考え方は、単純であるし、ある程度納得感があります。具体的に、フローの数値であるⓑとⓒに関し、評価会社の配当・利益を、保有株式由来のものと、そうでないものとを区分するドライバーとして、この「受取配当金収受割合」を用いることについて、さして違和感はありません。一方でストックの数値であるⓓの計算については一見何をしているのか?と感じるかもしれませんね。
 
 あくまでも私見ですが、これは保有株式由来のⓓ(純資産)として、「元本(株式)と果実(運用益の累積)」を示そうとしたものではないでしょうか。S1は「株式保有特定会社が保有する株式等とその株式等の受取配当等がないものとして計算した場合の同社株式の原則的評価方法による評価額」とする建前です。
 
そこで保有株式由来のⓓ(純資産)については、
 
(イ)まず、元本部分(株式)に対応する部分を、会社全体のⒹ(純資産)に保有株式割合(簿価ベース)を乗じて求めます。
 
(ロ)評価会社は、この元本である株式の保有を通じて受取配当という果実(運用益)を得ることになります。その収受した受取配当部分は、各事業年度の利益ⓒ(Ⓒ×「受取配当金収受割合」)として計上されるため、利益積立金が増加し、またその利益は、配当ⓑ(Ⓑ×「受取配当金収受割合」)として分配され、利益積立金が減少します。利益を全て配当するとは限りませんので、未分配の利益の累積が生じます。この部分を簡便的に算出したものが、「利益積立金(50円換算)×「受取配当金収受割合」」となります。
 
 これら(イ)と(ロ)を合算したものを保有株式由来のⓓとした-というのが、計数の考え方と思われます。
 
 ただ、この理屈だと元本部分は、Ⓓ(純資産)は50円換算の「資本金等の額+利益積立金」ですので、上の(1)と(2)の計算ベースに利益積立金が重複することとなります。従って(イ)+(ロ)が会社全体のⒹより大きくなってしまうという事態が想定されます。そのため、ⓓの算定額(イ)+(ロ)については、Ⓓを限度とするという規定が置くこととなった-ということでしょう。
 
 このような利益積立金部分の重複をさせないように、(イ)を、資本金等の額に保有株式割合(簿価ベース)を乗じて求めた方が理にかなっている-という考え方もあるかもしれません。ただ、この考え方では、年々の受取配当(利益積立金)を「再投資」して株式の取得に回すという企業行動が、表現できなくなってしまいます(元本部分の取得原資が資本金等の額であるとは限りません)。そこで元本部分の、Ⓓ(純資産=資本金等の額+利益積立金)に保有株式割合(簿価ベース)を乗ずるという形は変えないこととした-ということだと思われます。理論性より簡便性を優先した計算手法ということですかね(本書の「本来、他の会社の株式を保有することによる影響度の計算は、理論的に精密に行われるべきであると考えられますが…」というエクスキューズは、正にこのⓓの計算手法に当てはまるところだと思います)。
 
4. S1の計数操作性(私見)
 「S1+S2」方式の算定式の「課題」として、S1の数値がある程度操作される余地が残されている-という点が挙げられます。つまり、上記の「受取配当金収受割合」というのはPLベースでありますので、他の比準割合の算定基礎に比べて非常に動かしやすい数値であるということです。
 
 そのため、この「受取配当金収受割合」を2期平均で計算するという規定が置かれた…とは思われますが、グループ法人税制導入により完全子法人株式に係る配当は全額益金不算入とされましたので、企業側としては、より「動かしやすい」数値となったのではと感じています(もちろんⒸの計算上、受取配当益金不算入額は加算されてしまうので受取配当の増加自体は、比準値Ⓒの増加によるS1の金額の増加に貢献しますが、「受取配当金収受割合」を1に近づける程、S1の金額の減少インパクトの方が大きくなるケースが多いのでは-と想像します)。例えば、営業利益が2年連続の軽微なマイナスで、子会社の配当収入がそのマイナスを補い、トータルでプラスであったとすればどうでしょうか。受取配当金収受割合が1になり、S1の(Ⓑ-ⓑ)と(Ⓒ-ⓒ)はゼロ、(Ⓓ-ⓓ)もゼロにならないまでも少ない額になることが考えられます。
 
 この場合、「比準要素数1の会社」や「比準要素数0の会社」に当たれば、S1の金額部分も純資産価額が強制されるのではないか-と考えてしまうかもしれません。確かに取引相場のない株式の明細書・第8表でも「比準要素1の会社のS1の金額」の記入欄があります。ただし、これは会社全体の比準要素ⒷⒸⒹが1であった場合に用いるものであって、株式保有以外の貢献部分(Ⓑ-ⓑ)(Ⓒ-ⓒ)(Ⓓ-ⓓ)を比準要素と見立てて、それが1であった場合に用いるものとは記載要項等からは読めないような気がします。(会社全体の比準要素ⒷⒸⒹが0ならば、既に「株式保有特定会社」の評価に優先して、「比準要素数0の会社」として評価される)。

 「S1+S2」方式の「S1の金額」と「S2の金額」のどちらの金額の構成部分が多いかは、その評価会社によりケースバイケースだと思われますが、S1部分の計数については、上記のような計数の操作性が一部残されているのが課題なのかな…と感じています。
 
 
5. 感想等
 思えば、ここ数回は株式評価を話題とさせて頂いていたのに、笹岡先生の書籍に触れていないというのも変な話でしたね(笑)。今回はかなり強引?な形でしたが、取り扱わせて頂きました。
 
 本書の「取引相場のない株式」の項では、平成18年の新会社法移行の際の純資産価額計算上の役員賞与、未払配当金の取扱いや、仮決算方式と前期末決算方式の純資産価額計算上の未納固定資産税の取扱い等の解説など取引相場のない株式の評価に携わるようになった人間が必ず疑問を持つと思われる論点等を取り上げ、当時の実務には欠かせないものでした。
 
 また、純資産価額計算上のデリバティブ取引の取扱い(評基通上は資産として評価しない)を国税庁HP「質疑応答集」掲載前の段階で既に解説しているなどマニアックな論点も網羅されており(他にも純資産価額の相続税評価と帳簿価額が異なるケース(合理的な理由なしに無利息等による長期借入金、定期借地権を設定させたことによる預り保証金等)、ノックアウト条項付他社株転換債)も取り扱っており、非常に重宝させて頂きました。
 
 「株式評価の周辺」として、取引相場のない株式の評価についての記事を上げてきましたが、今回の記事で最後にしたいと思います。興に乗って、このテーマで17回も書き続けましたが…気がつけば記事がかなり偏ってしまいましたね(笑)。以後記事のバランスにも気をつけていきたいと思います。

 次回からは私的に実務に役立った感じた本…を順次紹介していきたいと思っております。

[追加] 2013/4/4 新版が発売になりました!
[追加] 第30回追加情報 具体事例による財産評価の実務―相続税・贈与税〈平成25年2月改訂〉が発売!


最後までご覧頂き、有難うございます。いつも長文ですみません。
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[追加] 2013/4/4 新版発売情報追加
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