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元会計事務所員。税務・会計関係の『積読本』消化をめざして立ち上げた感想文ブログです。

第32回 私の実務必携本(2) 棚卸資産(その1)―税務の論点:工場稼働停止時の償却費等/低価法の「時価」と評価損の「時価」の違い

法人税実務問題シリーズ/棚卸資産(第4版)
 森田政夫著、中央経済社、2008年
棚卸資産―税務処理・申告・調査対策 (法人税実務問題シリーズ)棚卸資産―税務処理・申告・調査対策 (法人税実務問題シリーズ)
(2008/02)
森田 政夫

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[購入動機] 書名・内容
[コメント] 棚卸資産の「税務」を丁寧に読みたい方はコチラはお薦めです。
【本日の記事の内容】
 1. 妙味のある解説!―棚卸資産の「税務」の実務書
 2. 非製造原価とできる費用
   ―工業化研究・工場稼働停止時の償却費等・原価差額の調整など
 3. 税務上の低価法の「時価」と評価損の「時価」の規定ぶりの違い
 4. 感想等


1.
 妙味のある解説!―棚卸資産の「税務」の実務書
 「棚卸資産が解説された一般書籍は少ない」―とよく言われますが、大・中型書店を覗けば在庫管理や会計関係の書籍ならば、大抵一・二冊は見つけることができます。これが「棚卸資産の税務の解説を中心の本を探したい…」となると、中々お目にかかりません。税務の解説があったとしても、それは会計の補論として触れられる位置づけで、あくまでメインの記述が会計関係の書籍が多いのではないでしょうか。これは棚卸資産の取扱い等について、「棚卸資産の評価に関する会計基準(企業会計基準第9号)」等の重なる部分が多く、税務の解説については会計の取扱いと異なる部分を補い(ex. 税法では短期売買商品は棚卸資産から除外等)、手続規定等の解説を押さえていれば概ね足りるであろう―という理解が一般的だからなのでしょうね。そもそも、法人税法施行令第10条各号に掲げる棚卸資産の範囲からして、積極的な定義規定もなく、「財務諸表等ガイドライン」「棚卸資産の評価に関する会計基準」など会計基準に準拠せざるを得ないため、棚卸資産については、会計を語らずして税務は語れない状況ではあります。そのような中でも、敢えて棚卸資産の「税務の本」として個人的に推したいのが本書になります。
 
 本書は中央経済社の「法人税実務問題シリーズ」の一つで、最新版は2008年の第四版です。この版には「棚卸資産の評価に関する会計基準」の公表に伴う平成19年改正までの内容が収められています(従って、平成23年改正の切放し低価法の廃止等は網羅していません)。この「法人税実務問題シリーズ」を侮ってはいけません。中には通達逐条解説や「改正税法のすべて」の焼き直しのような平坦な解説で、規定の羅列のようなものもありますが、個人的には「棚卸資産」「無形固定資産・繰延資産」「交際費」は押したい本です。ビールの宣伝に「コクがあって、キレがある」というものもありましたが、本書も「コク」がある内容―これらの解説書よりは一歩ないし一歩半踏み込んだ記述となっていると思います。
 
 
2. 非製造原価とできる費用―工業化研究・工場稼働停止時の償却費等・原価差額の調整など
 例えば、法人税基本通達5-1-4には「製造原価に算入しないことができる費用」14項目示されています(例示列挙)。逐条解説等でもその各々について原価算入が法人の任意とされる理由(異常な費用、会計においても非原価項目とされる等)を解説していると思います。もちろん、本書でも同様の記述がなされています。
 
 例えば、同通達の(2)「基礎研究、応用研究等の費用の額」においては、研究開発費等会計基準の「研究」に該当するような「基礎研究の費用」、「応用研究の費用」は、まだ特定の製品等の生産に至らない段階であり、生産のため等に要したものには当たらず、製造原価に算入しないことができるが、同会計基準の「開発」に当たるような「工業化研究」については、①工業化研究に該当する試験研究費は製造原価算入、②その研究が工業化研究に該当するか明らかでない場合には製造原価に算入しないことができる―と解説しています(本書pp45~46)
 
 その上で本書では、次のように付け加えています。
【引用】 本書p46
 しかし、工業化につながる研究が現在どのような段階にあるか、すでに工業化に至っているかどうかをめぐって、税務調査でトラブルがおこる場合が予想される。会社は研究機関でないから、どのような研究も将来の製品化を目指しているはずである。したがって、工業化研究にまだいたっていないことを税務当局に積極的に説明するのは難しく、消極的にまだ試作品の製作にも及んでいないことを説明するしかないであろう。例えば、試作品を作って通常の販売方法以外の方法ででも売ったという実績があるときは、その販売価額が製造コストより低くても、工業化にいたっていると判断されよう。
 このような解説を少しでも書いていただくだけでも、読手としては、調査対応時に疎明方針を立てる際に良いヒントになります。このケースが税務調査の論点となった場合の事実認定においては、この通達の適用の「積極的」疎明はできないので、状況証拠の「消極的」疎外しかできない―つまり、工業化に至らない事実の積み上げで、当方の主張を展開するしかないという疎明方針のイメージができる訳です。サイバイバルゲームで言えば、「フラッグ戦」でなく、「殲滅戦」という感じ?ですかね(スナイパーのように「積極要因」を狙い打つよりは、状況証拠・事実という「消極要因」という小石を山になるまで積んでいく)。このようなことを少し書いていただくだけで、とても助かります。
 
 また、同通達(10)では、今日的にはメーカー等での適用が考えられる「生産休止期間中の費用の額」が規定されています。景気低迷による在庫調整等から工場の稼働休止となった場合、休止期間中の減価償却費自宅待機等をさせる工業従業員の人件費等の固定費が生じます。これらは、いわば「異常な状態」を原因とするものであるため、監査法人から特別損失に振替え、非原価処理するようにと指示される会社も少なくないと思います。
 税務においても、この処理が適正な原価計算(原価計算基準)に基づく限りは、その処理による原価の額により計算される(法令32②)と考えられますが、念押しが欲しいところ。そこで参照されるのが、この通達―「生産を相当期間にわたり休止した場合のその休止期間に対応する費用の額」は製造原価に算入しないことができる―となります。本書では、下記のような解説を加えています。
 
【引用】 本書pp55~56
 この場合、「生産を相当期間にわたり休止した場合」の相当期間とは、どの程度の期間をいうのかが問題となる。通達ではこれを具体的に示していないが、例えば1週間ないし10日間程度の生産休止は連休、夏季休暇、年末年始等の休暇による休止と同程度のものであり、異常な状態とはいえず、ここでいう相当期間には該当しない。したがって、おおむね1ヶ月というのが相当期間についての判断の基準となると思われる。
 なお、工場の休止期間が1ヶ月以上に及ぶ場合であっても、季節製品を製造しているために、毎年ある時期に休止することが常態化しているような場合は、当該休止期間中に要した費用は製造原価に算入しなければならない。
 また、工場の機械等の更新とか修理のために1ヶ月以上工場を休止することがあるが、通達にいう相当期間の生産休止は、不況等の場合に限られない。したがって、機械等の更新のため2~3か月間控除を休止した場合の人件費等は、製造原価に算入しないことができるであろうが定期修繕のような場合は生産設備維持のための通常の休止として、その間に発生する費用は製造原価に算入すべきこととなろう。

(注)いわゆる遊休設備の減価償却は、税務では前記の法人税基本通達7-1-3(※引用者注 その期間中必要な維持補修が行われ、いつでも稼働しうる状態の場合、減価償却が認められるという通達)が適用されるものを除いて認められないが、物質的減耗が生じていなくても、経済的減耗は生じるので、減価償却費(※引用者注 会計上)を計上することがある。この場合の減価償却費は、税法上は償却超過額となるから、次の「ル 償却超過額その他税務上の否認額」(引用者注 法基通5-1-4(11))に該当し、製造費用に算入することは不要である。
 このような記述は、大蔵財務協会の「法人税決算と申告の実務」等の厚めの書籍には若干あったかな?…と記憶していますが、ハンディな一般書籍では丁寧な解説のものは少ないので、嬉しい限りです。その他製造関係では、法人税基本通達5-3-1から規定される「原価差額の調整」についても、個別に1章を割いて(第6章)、説明しています。計算例を含め約20頁(pp187~211)の解説があるので、大変助かります。
 
 
3. 税務上の低価法の「時価」と評価損の「時価」の規定ぶりの違い
 会計の論点としてではなく、税務の論点として触れて欲しいところが、税務上の低価法の「時価」と特定事実が生じた場合の棚卸資産の評価損に用いる「時価」との違い―特にその規定ぶりです。
 
1)低価法適用の場合の原価と比較する時価(本書pp94~96)
 棚卸資産評価基準制定前には、税法における棚卸資産に低価法を適用する場合の原価と比較する時価は「当該事業年度終了の時におけるその取得のために通常要する価額」再調達価額とされていましたが、同基準5で低価法の時価が「正味売却価額」と定められたことからH19改正で「その事業年度終了の時における価額」と改められ、法基通5-2-11でその解釈を示され、棚卸資産評価基準5の「正味売却価額」と同義と考えられています。
 
(税法)棚卸遺産に低価法を適用する場合の原価と比較する時価
=「その事業年度終了の時における価額」(法令28①二)
=「当該事業年度終了の時において棚卸資産を売却するものとした場合に通常付される価額」
(法基通5-2-11)
=「その算定にあたっては、通常、商品または製品として売却するとした場合の売却可能価額から見積追加製造原価(未完成品に限る)及び見積販売直接経費を控除した正味売却価額による」(同通達(注))
=(会計)正味売却価額
売価(購買市場と売却市場とが区別される場合における売却市場の時価)から見積追加製造原価及び見積販売直接経費を控除したもの(棚卸資産評価基準5)
 これらは「積上方式」でなく、「控除方式」による時価算定の考え方を採用しています。見積原価・経費控除後のマイナス部分の計上はなく、マイナスの場合は会計上は引当金計上(基準44)という対応があるようです。また、売却市場がなく、購買市場のみがあると想定できる原材料・補助材料・貯蔵品には売却可能額はないため、再調達価額でも差支えがないというスタンスのようです(本書p95)。
 
2)特定事実が生じた場合の棚卸資産の評価損計上の場合の時価(本書p213~214)
 一方、法人税法第33条では、法令第68条に規定される特別の事実がある場合には、損金経理により、その帳簿価額を当該事業年度終了の時の価額(時価)まで減額することが認められています。この場合の時価は法基通では次のような解釈が示されています。
 
(税法)特定事実が生じた場合の棚卸資産の評価損計上の場合の時価
=「当該資産が使用収益されるものとしてその時において譲渡される場合に通常付される価額」
(法基通9-1-3)
=譲渡可能価額(≠正味売却価額)
 ここでいう「時価」は「譲渡可能価額」そのものですので、「これから譲渡経費見積額を差し引いいた正味実現可能価額とすることはできない」(本書p213)とされます。従って上記の低価法適用時の「時価」とは異なる―ということになります。
 また、「使用収益されるものとした価額」ですので「そのままの状態で販売されるものとした価額」であり、「いわゆるスクラップとして売却処分する場合の価額」ではないとのことです(本書p214)。ただし、特定事由が「災害により著しく損傷した場合」である場合には、使用収益に堪えないものですので結果としてはスクラップ価額が許容されるようです(本書p215)。
 
 低価法については、会計と税務ではグルーピングの範囲が異なること(税務の方が狭い。本書pp106~107)や低価基準適用に当たっての網羅性の要否(本書pp108~109)についての解説もあります。
 会計上は「つまみ食い」的な低価法の適用は利益操作に繋がるとも考えられますが、実際問題として「棚卸資産が多ければ調査しきれない」―というのは避けられないところ。棚卸資産評価基準でも何も示されてはいません(本書p109)。税法では「法人がそれに係る権利を放棄したという取扱いになるだけ」で、「低価法の適用全体が否認されることもない」とされ、「法人が任意に評価損の額を損金の額に算入しなかったものとして取り扱われる」ということのようです(本書p108)。
 
 
4. 感想等
  そういえば、法基通9-1-3の「時価」って、いつぞやの税理士試験での出題されましたね。 この辺りから実務チックになってきたなあ…という印象を受けました。
 本書は、このような丁寧な税務の記述がなされているところが、魅力ですが、この本が私が好きになった理由は別にありまして…それは次回の棚卸資産②で、ご報告したいと思います(要は「つづく」ということです…記事がおさまらず、大変申し訳ございません)。


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