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元会計事務所員。税務・会計関係の『積読本』消化をめざして立ち上げた感想文ブログです。

第4回 営業権・のれん考(4) 法人成り時の営業権の認識

「法人成りの税務と設立手続きのすべて」
 平野敦士編著
株式会社マネージメントリファイン編著、久保田潔、吉井朋子著、中央経済社、2011

法人成りの税務と設立手続のすべて―有利選択‐税務・会計・労務・登記・行政手続法人成りの税務と設立手続のすべて―有利選択‐税務・会計・労務・登記・行政手続
(2011/12)
平野 敦士、吉井 朋子 他

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[購入動機] 法人成り時の営業権の認識をどう書いているか知りたかった。
[コメント] 平易な語り口で中小企業経営者・担当者にはとても読みやすいものだと思います

【今回の記事の目次】
 1. 法人成り時の営業権の認識
 2. 営業権は現物出資できる財産か?
 3. 財産評価基本通達の営業権が算定されなかったからといって…
 4. 感想等

[1] 法人成り時の営業権の認識

 前々回では大企業の営業権の触れてもらいたくない論点として、「連結納税加入等の自己創設営業権」を取り上げましたが、もう一つのあまり触れてもらいたくない論点として「法人成り時の営業権の認識」があります。こちらは中小企業の論点と言えるでしょうね。


 「法人成り」とは個人事業を法人事業に移行することですが、その際、営業権が引き継がれているのではないか―という考え方があると思います。


 この点について、本書「第3章 法人化に伴う資産の引継ぎに関する税務」として下記のような記載があります。

「事業譲渡の場合、個人事業の貸借対照表には計上されない事業価値(いわゆる営業権若しくはのれん)を引き継ぐことがあります。営業権は、当該事業が将来一定期間獲得できるであろう予想収益のうち同業他社よりも多いと予測される部分(超過収益力)を、現在売買した場合の妥当な金額を表したものです。」(p88

「個人の法人化の場合は、特に事業譲渡という考え方を採る必要はなく、個別資産ごとに譲渡すればよいでしょう。その主な理由は、営業権の評価は見積もりの要素が大きく算定が難しいこと、営業権の評価額により個人の所得税が増加する可能性があること及び法人に引き継がれた営業権の価額に合理性がないと法人において償却費が否認される可能性があることによります。ただし、財産評価基本通達165において営業権の評価方法が示されており、参考にするとよいでしょう。」(本書p88-89


 本書が、中小・零細企業の方を想定読者としていることを考えると、彼らの期待値に適った、かつ、理解できる言い方となっていて、その意味では上手く表現なさっていると思います。


 税法観点からややカタ目に言うならば、条文上は計上しなくて良いとは一言も言っていません。

 机上の話としては、無形固定資産として「厳密な資産性が認められる」営業権ならば、やはり法人側で資産計上の上、個人側は譲渡所得として所得税が課せられることになります(所基通33-1)。ただ、本書の指摘のとおり、営業権評価の難しさがあります。となると法人側での償却否認リスクがあるものを、わざわざ個人側で課税させてまで計上するか―といえば、あまりやりたくはない。つまり、この営業権については、「触れてもらいたくない」というのが本音だと思います。


 ここで法人側で資産計上していないからといって、個人側の譲渡課税のリスクがないかと言えばそうでもありません。本書p104でも触れているように、法人に対する贈与・低額譲渡は、個人側で時価によるみなし譲渡課税となります(所法59)。営業権の対価ゼロという建て付けにしても、個人側の課税リスクはない訳ではないということです。とはいえ、税務調査の局面で、当局がこれを積極的に指摘するか―乃至は、当局側からあるべき営業権の価額を示すか―ということも中々考えづらいところだなと個人的には感じます。


 同族会社等で行われる営業権取引の否認については、昭和4865日横浜地裁判決などがあります。争われた取引の「営業権」(超過収益力)が、客観的な存在でないことを指摘していますが、その総合評価の中で、「企業として歴史が浅く、比較的小規模の中小企業に属す」点も一因として挙げています。どのケースでも当てはまるものとは限りませんが、この判例については「第5回」で取り上げます。


 この状況に、さらに会社法の要請が絡んできます。会社法上は、設立時に資本金以上の価値を確保すれば、権者保護の観点が満たされるため、資本充当責任の観点からは、現物出資の資産の引継価額は時価以下であればいくらでもよいと考えられています(本書p91)。むしろ、資本充実の原則等からも本書p104にあるように「時価100の棚卸資産の棚卸資産を100以下のいくらで引き継いでもかまいませんが、101以上で引き継ぐことは問題となる」ということです。これに要件が緩和されたといっても一応、検査役調査規定があることや、営業権の評価に難点を要することを考えると、「計上しない」というバイアスが更に少しかかる―ということになります。


※【追加】現物出資と不足額填補責任  2012/12/5
(鶴田彦夫、中江博行著「現物出資の理論と実務」、税務研究会出版局、平成24年)
 

「変態現物事項の一つである現物出資は、出資行為であり、旧商法は当然に資本充実責任があった。不当に高い評価がなされると、会社の資本充実は空洞化するとともに他の株主との関係で割り引いた株式を発行することになり、株主平等原則に反する」(鶴田・中江著p8)。「そこで会社法では、不適当な評価で財産を受け入れた場合には、発起人や設立時の取締役に対して、定款に記載された金額と実際の価格との差額を補填する責任を定めている。(中略)なお、発起人・設立時取締役の現物出資等の不足額填補責任は、検査役の調査が免除された場合のみ生じる」(同p37。会社法52①②一)。尚、この不足額填補責任は会社法52②二において過失責任とされていますが、募集設立の場合には会社法103①で過失責任規定をは排除しています。したがって、①発起設立の場合過失責任、②募集設立の場合には、、旧商法時代と同様に発起人以外の新株引受人の保護の観点から無過失責任という形になっています(同書p9)。 その一方で、設立時では総株主の同意によって、その責任を免除することもできます(会社法55。同p170)

(ということは、この観点からは、典型的な「法人成り」パターンですと誰にも迷惑かけない可能性が高いかも…ということになりそうですね。 申し訳ございません。 )


 以上のことを鑑みるに、それでも営業権を計上する局面として想定されるのが、①当事者が営業権の存在を認識しているおり、②その客観的存在が立証でき、③その営業権評価の算出根拠がしっかりとしている場合ぐらいに限定されます。その算定に際しては、セーフハーバールールとして実務に浸透した簡便法である財産評価基本通達の営業権の評価手法を用いる余地もある―ということではないでしょうかを本書は述べたかったのではないでしょうか


 本書ではこのあたりのことを小難しくなく、日常の業務でクライアントに接する際の語り口そのままで、記されたのかと思います。参考になります。



[2] 営業権は現物出資できる財産か?

Q&A 現物出資等における財産価格証明の手引き

平川忠雄編、新日本法規、平成16

Q&A現物出資等における財産価格証明の手引Q&A現物出資等における財産価格証明の手引
(2005/05)
平川忠雄

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[購入動機] こういうこともビジネスとなる日がくるのかなと…
[本書の効用等] 勉強になりましたが、実際に証明する機会はありません…(さらに要件緩和したので)

 上記[1]の私のコメントの「当事者が営業権の存在を認識している」という表現のネタ元が、こちら書籍です。
 本書は、平成14年の改正商法で現物出資等の際の財産価格証明者として、税理士や税理士法人が認められることとなり、その実務の評価証明手法や評価書の文例を示したものでした。

 この「第4Q&A項目別財産価格証明」の営業権の項で下記のように記されています(p272)。

Q 営業権は、現物出資できる財産に該当するのでしょうか。また、現物出資できる場合、営業権の評価はどのように行うのでしょうか

A

(1)現物出資ができる財産か

 営業権は、一般的には現物出資できる財産と考えられていますが、実在性の確認が困難なことから否定的な見解もあります。

2)その評価額の算定

 営業権の評価は、収益還元法によるものと考えられますが、営業権の個別性に応じて各種評価方法のうち最も合理的な評価方法を採用する必要があります。

3)資本確保の確実性

 現物出資の当事者が営業権の存在を認識することにより確実性が担保される。


 つまり、伝統・社会的信用等の「暖簾」の源泉となる超過収益力的な発想の営業権は、法的に確認することができません。そもそも実在性が確認できない。そこでトラブルを避ける意味も含めて「現物出資等の時点で合理的・客観的な評価方法に基づく営業権が存在することを、当事者が認識する必要があります」(p273)ということになります。


 このように当事者が意識的に営業権の存在を認識するケースといえるものは、具体的にはどのようなものが考えられるでしょうか。私見ですが、共同出資による設立の際に現物出資が絡んだ場合ぐらいではないかと考えます。利害を異にする各出資者が設立の際に持ち寄る資産について、意識的になるとき―その見合いとして保有できる議決権等により、会社の支配権に影響を与えることになるときに、営業権が当事者間の事前交渉のテーブルに上がることになります。そういうケースぐらいではないでしょうか。法人化する全事業が一個人の事業である場合―いわゆる「法人成り」では、経営権がそのまま継続されますので、当事者である個人が営業権を意識することや、それを積極的に認識する意義も然程感じないであろう―と想像します。


 また、ここで評価手法の第一として挙げられるのは、収益還元法―今でいうDCFです。

 ただし、純資産価値評価法、株式市価基準法、純益年倍法(35年分)、営業量基準法(酒類醸造業、その他許認可事業で営業量の相場がある場合)、得意先基準法(固定顧客数×単価等)、相続税法に基づく評価法(財産評価基本通達)その他の手法やこれらの折衷法があり、「現物出資の目的資産である営業権の個別性を基に、資本充実の観点から最も適した評価方法を採用すべきものと考えられます」としています(p274-276)。



 また、本書では日本税理士会連合会が作成した「現物出資等における財産価格の証明等に関する実務(16頁)」(平15.5日本税理士会連合会業務対策部)を紹介しています。

 ここでは営業権の評価については、下記のような記述があるようです。


「現物出資等の財産評価においても「財産評価基本通達」の算定方式は、基本的に支持されるものと思われますが、評価の役割、目的の相違から次の諸点は、再考に値するものと思われます。

①平均利益額、②平均利益金額の減額、③控除される企業者報酬の額、④基準年利率、⑤将来収益の考慮すべき年数、⑥現物出資等として受ける者の事情要因」

 このガイドラインの存在は本書を見て初めて知りましたが、財産評価基本通達(ないしの修正評価)が、セーフハーバールールとして語られるところとして、こちらのガイドラインの影響もあるのかな?とすこし感じました(現在はどのようになっているのでしょうかね。)


[3] 財産評価基本通達の営業権が算定されなかったからといって…

 そこで財産評価基本通達の営業権を算定することとしたとして、その評価がゼロだったという場合ですが、然程喜べない部分があるというか、微妙なところはあります。


財産評価基本通達の営業権の算式は、下記のとおりです。

① 超過利益額=平均利益金額×0.5-標準企業者報酬-総資産(相法ベース)×5

② 営業権=①×基準年利率・10年の複利年金現価率


 上記①の算式によれば、平均利益が「総資産×10%」なら、超過利益額はゼロ。すごくざっくりいうとROA10%以上でないと営業権は算定されないことになります。


 ROA=売上高利益率×総資産回転率ですので、総資産回転率は11.5ぐらいが普通と考えると、大づかみに利益率が10%を出していなければ、営業権の評価額は出づらいということ計算構造になっています。


 この場合、まだ個人事業であったビジネス規模の小さい事業で、利益率10%未満という状態だと、果たして法人化する意味があるのか、このまま個人事業の方がよいかも…という話になりますかね。


 算出されなければ算出されないで、違う意味で、それは頭が痛い話となります。


[4] 感想等

いずれにしても、法人成りで営業権を計上するという場合には、相当な理論武装が必要な感じですよね。
そのあたりを第5回でも検討したいと思います。


【追加修正】 2012/12/4 「現物出資と不足額填補責任」追加及びその前後の文章を一部修正
【追加修正】 2012/12/5 一部文言修正しました。度々すみません。

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2012-10-26 : 営業権・のれん : コメント : 0 : トラックバック : 0
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