元会計事務所員。税務・会計関係の『積読本』消化をめざして立ち上げた感想文ブログです。

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第60回 交際費総点検!(4) 交際費は何故措置法なのか?―本法に入らなかった歴史的背景

法人税回顧六十年~企業会計との関係を検証する~
 武田昌輔著、TKC出版、2009年
法人税回顧六〇年―企業会計との関係を検証する法人税回顧六〇年―企業会計との関係を検証する
(2009/09/28)
武田 昌輔

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[購入動機] 条文ばかりだと苦しくなったので…
[コメント] 当事者しか分からない貴重なお話ばかりです。

【参考】
山本守之著 「交際費の理論と実務」(税務経理協会、2009年) 
森信茂樹著 「消費税、常識のウソ (朝日新書) 」(2012年)
【今回のブログ記事の目次】
1 それは「バカヤロー」から始まった~交際費が本法に入らない歴史的背景
2 租税特別措置法として制度創設~S29「造船疑獄」事件による環境変化
3 感想等

1. それは「バカヤロー」から始まった~交際費が本法に入らない歴史的背景

 平成20年と平成23年の年度内に税制改正の法案が成立しなかったことは、皆さん、記憶に新しいことと存じます。「みなし法案」だとか、「60日ルール」、「租税法律主義の不遡及原則」だとか―いろいろありました。
 
 昭和28(1953)年も年度内に税制改正法案が通らなかったようです。実は、この通らなかった改正法人税法の原案には、交際費等の規定があったようです。

 昨年亡くなられた武田昌輔先生の法人税回顧六〇年―企業会計との関係を検証する 」(TKC出版、平成21年)に次のように記されています(少し長いですが、この語り口が何ともいえないので、そのまま引用させて頂きます)。
 
【引用】 「法人税回顧六十年」 pp84~85より
 
 交際費が損金不算入となったのは、昭和二十九年のことです。昭和二十五、六年頃から「企業の資本蓄積を大いにやりなさい」という議論が出始めました。そして、特別償却制度、準備金制度の創設などの諸施策が講じられ、交際費についても「できる限り冗費を節約するように」とされたのです。これには、当時の主税局長・渡辺喜久造が大変熱心に取り組まれました。
 
 戦後の復興で景気も上向きになってきた頃ですから、それこそ新橋や赤坂、柳橋などの花街が大変栄えるわけです。そこに税務官庁は目をつけて「税制上種々の優遇措置をしているのだから、少しはお返ししなさい」となるわけですね。「お返し」とは、あまりよい表現ではありませんが「企業経営が潤うように、これだけのことを税制上やっているのだから…」ということで、この交際費課税は昭和二十八年度の税制改正案では法人税の本法に盛り込んだのです。
 
 しかし現在は、租税特別措置法として位置付けられています。租税特別措置法は「暫定的に措置する特例を定めることを目的とした法律」です。ですので、よく若い学生から聞かれます。「これはもはや、租税特別措置法ではなく、本来本法に入れるべきと考えますが、いかがでしょうかと」。
 
 その時、決まってこう答えます。「それはあなたの言う通りで私もそう思いますが、その昔、この制度が本法に入っていたことを知っていますか?」と。このことを知っている人は、専門家でも少ないようです。
 
 前段部分は前回記事までの創立時の趣旨・目的の議論に沿った話です。「若い学生」さんは、成蹊大学の学生さんですかね。「この制度が本法(法人税法)に入っていた」とは初耳です。続けます。
 
【引用】 「法人税回顧六十年」 pp85より
 
 昭和二十八年三月十四日、いわゆる吉田茂首相の「バカヤロー解散」がありました。
 
 これにより、昭和二十八年度の税制改正案はお流れとなったのです。
 
 また、国会議員や経済界の中からも「会社経理統制令(昭和十五年施行)のように、企業のさまざまな行為に政府が干渉するのは問題ではないか」「交際費を費用として認めないのはけしからん」というという議論が巻き起こり、激しい反発にあったことから昭和二十八年度税制改正の原案からは削除し、同年八月に通ったわけです。
 
 つまり、この制度の創設は見送られたわけです(以下略)。
 
 「バカヤロー解散」―御存知でしょうか。昭和28年の衆議院解散の俗称ですが、その発端となった衆議院予算委員会のやり取りについてWikipedia「バカヤロー解散」には次のように記されています。
 
【引用】 Wikipedia「バカヤロー解散」より
 
吉田 「只今の私の答弁は、日本の総理大臣として御答弁致したのであります。私は確信するのであります」
西村 「総理大臣は興奮しない方がよろしい。別に興奮する必要はないじゃないか」
吉田 「無礼なことを言うな!」
西村 「何が無礼だ!」
吉田 「無礼じゃないか!」
西村 「質問しているのに何が無礼だ。君の言うことが無礼だ。(中略)翻訳した言葉を述べずに、日本の総理大臣として答弁しなさいということが何が無礼だ! 答弁できないのか、君は……」
吉田 「ばかやろう……」(自席に戻る際ボソッと呟くように吐き捨てる)
西村 「何がバカヤローだ! バカヤローとは何事だ!! これを取り消さない限りは、私はお聞きしない。(中略)取り消しなさい。私はきょうは静かに言説を聞いている。何を私の言うことに興奮する必要がある」
 
 「バカヤロー!!!」と怒鳴ったわけではなく、「ばかやろう(ボソッ)」だったのですね。イメージと違いました(笑)。

 
吉田首相は戦争中、親英米派の外交官で、軍部から標的とされていましたが、この西村議員(右派社会党)は軍部寄りの方であったようで、元々仲が悪かったという話もあるようです。もっとも、西村議員はその場での吉田首相の謝罪を了承したのですが、この発言を発端に、野党との間で紛糾し衆議院は解散します。
 
 問題は日程なのですが、この「ばかやろう(ボソッ)」が2月28日で、衆議院解散が3月14日。これで年度内に昭和28年度税制改正が成立しなかったというわけです。
 
 もっとも3月で法案を上げていれば、通ったかと言えば、何とも言えなそうです。武田先生の記述によれば、この交際費課税の法律案(第9条の10)は、税制調査会等において全く審議がなく、突如として法案化されたとのことで、財界等の反発が激しかったようです(同書 p93)
 
【引用】 「法人税回顧六十年」 pp98より
 (このようにして議論が行われたところであったが、)昭和二十八年二月二十八日に、国会においていわゆるバカヤロー問題が生じ、国会解散が行われたために、税法もこれによりほとんどが流れたのである。
 
 ようやく、同年八月になって最終的に法人税法等の改正案が通ったが、政府もこのような問題があった交際費課税の提案は撤回したところでの改正が行われた。
 
 泉美之松氏(税制第一課長)の解説では、「(イ)まず、法人税法における交際費、機密費等の損金算入の制限を設ける改正案については、更に検討を要するので、これの提出は取り止める」(財政経済弘報社「改正税法総覧」四頁)としている。
 
 当時の担当者の方も「ばかやろう(ボソッ)」という気持ちだったかもしれませんね。

【追記】 2013/5/16 昭和28年法人税法改正案条文
 山本守之先生の「交際費の理論と実務」(税務経理協会、H21)の冒頭(pp1~3)に、上記経緯の要約があります。ちなみにボツとなった条文は次のようなものであったそうです。
【引用】 「交際費の理論と実務」 p1 法人税法第9条8
 法人の支出した交際費、機密費等の金額が政令で定める一定の限度額を超えるときは、その超過額の2分の1を損金の額に算入しないものとする。
  
 
 
 
 
2. 租税特別措置法として制度創設~S29「造船疑獄」事件による環境変化

 前回の記事での、末永先生の本の中でも、「1954(昭29)の「造船疑獄」に端を発した交際費等課税に対する環境変化を背景に制度が定められた」とあります。1954(昭29)年というのは、上の解散の翌年ですね。武田先生の本には次のように記されています。
 
【引用】 「法人税回顧六十年」 pp87 より
 しかし、翌二十九年度の税制改正において、租税特別措置法にこの制度を盛り込んで提出しました。
 
 この時には、ちょうど造船疑獄事件が発生しました。これによって、花柳界との関わりなどが明らかにされて、ムードはがらりと変わります。野党が「とんでもないことだ。交際費課税は強化すべきだ」と主張し始めたのです。
 
 そして、前年から一八〇度変わったその政治ムードを味方につけ、交際費の損金不算入制度は昭和二九年度の税制改正で三年間の臨時措置として租税特別措置法に規定されました。
 
 それにしても、「三年間だけ我慢して欲しい」ということでしたが、その後何度も改正され、強化されながら今日まで租税特別措置法として継続されています。そして交際費の損金不算入割合は原則一〇〇分の一〇〇となっています。
 
 尚、本法にこの措置を入れますと、一〇〇分の一〇〇というのは持たないと思います。勘で申しますと、五割位が冗費として残り、五割は必要経費として認めるべきですが、税務官庁は税収が減ることに対して非常に敏感です。おそらく当分の間は、この制度を本法に入れることには消極的だと思います。
 
 私は若い人たちには「本法に入れるという考え方もいいですが、昔あったことをもっと調べて発言しなさい」と言っています。
 
 なお、ついでに申し上げながら、本法に入っていた交際費等に関する規定はなかなか手に入れることは困難でしたが、現在それを手元に持っております。
 
 「造船疑獄」については、Weblio辞書では次のように解説されています。

【引用】 Weblio辞書 「造船疑獄」より
 1953年(昭和28)から翌年にかけて起こった、海運・造船会社と政府・与党との間の贈収賄をめぐる疑獄事件。多数自由党政治家が取り調べを受けたが、犬養健法相の指揮権発動により幹事長佐藤栄作に対する逮捕要求が阻まれ、事件は核心に触れずに終わった。これにより第五次吉田内閣は崩壊した。
 
 Wikipedia「造船疑獄」では次のようなことが解説されています。
 
【引用】 Wikipedia 「造船疑獄」より
 1954年3月26日、社会党の中田吉雄がこの問題の追及時に、「今五つの『五せる』接待方法がある」「飲ませる・食わせる・いばらせる・握らせる・抱かせるであるが…」と発言し、一部で流行語化した
 
 かなり露骨な感じですが…役人懐柔策の皮肉に用いた言葉です。ある意味、租税特別措置法より、明瞭な定義ですね。「交際費課税に対する環境変化」が顕著にあったことが推察できます(国税もこの機を逃さないでしょうね)。
 
 なお、「疑獄」とは次のような意味になります。
 
【引用】 Wikipedia「汚職」より
 汚職のうち、政治にからむ大規模な贈収賄事件や、犯罪の事実が特定しにくく判決のむずかしい裁判事件のことを、特に疑獄(ぎごく)という
 
 この「造船疑獄」事件では、政界・財界・官僚など71名の逮捕者が出たそうです。「冗費」に対する社会的批判というよりは、役人に対する社会的批判を、「接待」という行為面を取り上げて、交際費課税の根拠にすり替えてしまったような感じもしないでもありませんが…。
 
 
 
 
3. 感想等

 武田昌輔先生は、大蔵省主税局で昭和40年法人税法全文改正を担当された方です。前掲書では、この改正あたりのエピソードも収録されています(この全文改正は「規定の明確化」「体系の整備」「表現の統一化」の三つの基本方針があった(同書p104)、公正妥当な会計処理基準導入の背景(同書p129~)など)
 
 
 そのような先生が、「交際費は本法に入れた方がいいのでは?」という後進からの問いに、「もっと調べてから発言しなさい」と厳しいことを言いながらも、入手が難しかった当時の条文を手にして「現在それを手元に持っています」と言ってしまうところが、お茶目というか、お人柄が偲ばれます。
 
 吉田首相も「バカヤロー解散」の後日談として、Wikipediaにはこう記されています。
 
【引用】 Wikipedia 「バカヤロー解散」より
 さすがの吉田茂も発言当初は「つい言ってしまったのがマイクに入った」としょげ返っていたが、数日後には元気を取り戻し、会合で「これからもちょいちょい失言するかもしれないので、よろしく」と余裕しゃくしゃくのスピーチを行っている。
 
 お二人ともユーモアがありますね(今ならきっと怒られますけど…)。
 
 今回取り上げた本は、税法の立法側の苦労が描かれています。近年では消費税改正の担当者が似たような苦労をしているかもしれません。
 
 消費税率を3%から5%に改正した際、大蔵省主税局でその担当であった森信茂樹中大法科大学院教授は「消費税、常識のウソ (朝日新書) 」(2012年)において次のように記しています。
 
【引用】 「消費税、常識のウソ」 p5より
 (種々の議論があるが)このようなあらゆる課題を乗り越えてこその消費税増税です。つまり、消費税問題は、世界の税制改革の流れ租税理論の学問的成果、経済学や社会保障の多様な知識、さらには政権への支持をバックにした野党対策、最後に国民への説得という実に様々な要素を持つもので、それに適切に対応するには、「総合芸術」ともいうべき能力が必要です。
 
 上述の交際費の措置法による制度創設過程については、「租税理論」というよりは、当時の「野党対策」と「国民への説得」という要素が大きなものを占めていました。同じような立場の方が感ずるところなのでしょう。武田先生も「反対されないように、税は小さく産んで大きく育てる」(前掲書p1)と述べています。そのような背景で、消費税や事業税の外形標準課税も低税率からスタートしているようですね(納税者の立場からすると「総合芸術」という表現はちょっと…(ニガ笑))。
 
 ただ、制度設立時に「国民への説得」ができていたとしても、あらゆる法律は「陳腐化」します。現代の日本における交際費課税のあり方も、今一度考える時なのかもしれません。
 
 次回は「計算過程の変遷」を記事にしたいと思っております。
 
(追) そういえば、今回「法人税回顧六十年」を取り上げましたが、今年(平23)は「バカヤロー解散」から60年。私のブログ記事も60回目という回でした(単なる偶然です…)。


【追記】 2013/5/16 一部記事追加
 
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